第9話 セックスレスでも不安は有る。
画面の中で女性の下着の中に男優が手を入れる。下着越しに見える指の動きのいやらしさに思わず両足が動いた。女性の嬌声が絶え間なく流れてきて、うるさいくらいに思えるが、男性はこういうのが好きなんだろうか。
やがて素っ裸にされた女優に、男性がのしかかる場面はやたらとカメラに近づけているのかアップにされている。那智自身はここまで見てしまうと、気持が引けて来てしまう。本番と言われるような場面などは見ていられなかった。グロいというよりももはや痛々しくて。AVの女性は大概が華奢で細身だ。その相手である男優さんは必ず女優よりも大柄なのだから、どうにも不公平な気がしてならないのだ。
一本の動画が終了したところで、雅は那智の口から手を放し、パソコンの動画の画面を消した。
「・・・もう、いいでしょ、気が済んだんなら」
「したくなった?」
こんなものを見せられて、普通の状態ではないのは確かだが、だが、AVをみて興奮の余りしたくなった女、というのは余りにもあさましく思えて認めたくなかった。
「いや、仕事するから。もう、みっちゃんは寝なよ。」
強がりとも痩せ我慢ともつかない、なんとも言えない複雑な思いで、那智は雅にそう告げる。
「なっちゃんが一緒じゃないと寝られないよ。一人じゃ寒いし。」
「はああ~?」
呆れるとはこの事だ。いい年をして、何を甘えたことを。
「いつもは咲良がいるから布団があったかいけど、今日はいないじゃん。仕事は明日にして、寝ようよ。それ急ぎじゃないんでしょう?」
またカイロ代わりか。
40過ぎとは思えない、上目遣いでこちらを見る夫が恨めしい。
ガキじゃないんだから一人で寝ろ、と怒鳴りつけたいところだが、夜も遅いし、子供を起こすわけにいかないのでそれも出来ない。
それに、やっぱり那智は雅には弱い。
その程度の我儘くらい、聞いてやりたいと思ってしまう。
確かに、咲良がいないだけでいつもより寝室が寒い気がする。
それならばエアコンでも点ければいいと思うが、エアコンは温まるのに時間がかかり過ぎるのだ。
灯りを暗めの常夜灯に変えて、布団に潜り込んだ。窓の外が明るいのは、満月の月明りのせいだ。
隣りに横になった夫は、今日も手を伸ばして来る。
「ね、一緒に寝よう。」
「・・・はいはい。」
ご希望通り、手を彼の首と背中に回し、しっかりと抱っこしてやる。すると、両足が那智の脚にしがみついてきた。冷たい。本当に風呂に入ってあったまってきたのだろうか。
痩せているので骨っぽいけれど、那智は、そんな雅の肢体が嫌いではない。
「おやすみなさい。」
半ばやけくそ気味にそう言って目を閉じる。
「なっちゃん・・・。」
「何?」
「ぎゅっとして。」
「してるって。」
腕の力を強めると、夫は妻の胸に顔を埋めるようにしがみつく。
雅が寝付いたら再び階下へ降りて仕事しようと思った。それまでの我慢である。
「・・・ねぇ、なっちゃん・・・。」
「だから、何?どうしたの、寝ないの?」
がばりと起き上がって、上から雅が顔を覗き込んできた。
「俺って、もう駄目?そんなに、感じない?やっぱ弱っちいから、したいって思えない?」
「へ?」
雅の表情は、どこか苦しそうだった。
「それともアレかな、もうすっかり家族って感じになっちゃったから。もう色気とかないのかな。」
「何言ってんの。」
それは、那智がずっとそう思ってたことで。レスになった言い訳にしていた事で。
「だって、なっちゃん・・・。俺と一緒に寝てても全然そういう気配ないじゃない。だからAVとか見たら、盛り上がるかなって思って。」
耳元に囁く雅の声は、なんともくたびれたような、やりきれないようなものだった。
「せっかく、今日は二人きりの部屋なのに。咲良がいないのは寂しいけど、その代わり今夜は気兼ねなく出来るのに。」
着ていたスェットの中に、手が入ってきた。冷たい手が直接素肌に触れ、その温度差にびくりと震える。脇腹から上に下に、雅の両手が那智の身体をまさぐった。
「もう、俺には何にも感じなくなっちゃったの?」
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