第4話 セックスレスでも甘えは有る。
雅は翌週の家族の予定を確認する。
平日は大概夫も家に余りいないので確認してもしょうがないけれど、週末は多少予定を知っておかなくてはならないのだろう。
総一郎の試合や、咲良の習い事などの予定が入ると、週末の予定が狂ってしまう。
那智の仕事が押していて家事や子供の送迎が出来ない時などは、雅が代わってやってくれる。一人暮らしをしていた雅は家事はお手の物だし、料理もうまいが、普段は全く作らない。那智の手が回らない時だけ代わってくれるのだ。当然ながら車の免許も持っているが、やはり普段は乗らないで那智に運転させている。
収入は雅には及ばないが、それでも那智だって働いているのだ。正直言うならもっと家の事もやって欲しい。というか、子供並みに手を掛けさせないで貰いたかった。
だってやれば出来る人なのだから。
花柄の茶碗にご飯をよそって夫に手渡す。
嬉しそうに笑って受け取る夫の顔を見ると、やっぱり嬉しくなる。
「なっちゃんのご飯は美味しいよね。」
まあいいか、と思えてしまう。
雅の優しい言葉があるから、少し不公平だと思っても、甘ったれていると思っても。女として求めて貰えなくても。
たとえレスだって構わない。
雅は綺麗で優しくていい夫でいい父親だ。だからつい許してしまう。
いいじゃないか、今どきはどこの夫婦だってレスなんて珍しくもない。
子供がいればなおさらだ。
雅は夫としても父親としても申し分ない男なんだから、してくれなくたっていいじゃないか。
浮気するでも無し、ギャンブルするでも無し、酒乱なわけでも無い。
少々仕事はサボり気味ではあるが、それでも生活していけないような月給ではないのだ。
可愛い息子と娘に恵まれているのだから、これ以上子供を産む気が無いのなら、無理してセックスしなくてもいいではないか。
そう思って自分を慰めるけれど。
やっぱり正直言えば寂しい。
翌週は、有休をとったと言うちとせとランチに出た。
会社からもほど近い居酒屋はランチメニューがお得だと、ちとせが連れて行ってくれたのである。
「ちとせの所は、一人っ子、でいい感じなの?兄妹欲しいとか言わない?」
「そうねぇ、ちょっと前は言ってたけど、今は言わないわね。中学に上がるともうどうでもいいんじゃないかな。弟妹の事なんかいてもかまってやれないっしょ。」
「ふーん、そっか・・・」
「なっちゃんちは、まだ作る気あるの?咲良ちゃんが今小五だっけ。十一歳差の兄弟か。」
「いやいやいや、もういいよ。産むのはともかく、育てられないもん。体力的にも、経済的にも。」
「だよね。お金も手間もかかるわよね。あたしも健士が小さい頃は、どうにかして弟か妹をって思ったけどさ。今はもういいやってなっちゃった。」
注文を取りに来たウェイトレスに、本日のAランチを頼むと、ちとせは那智の方を向き直った。
「なっちゃんとこはさ、今も、することあんの?」
「え」
「今も
「いや、やー、最近は無いねぇ。すっかりご無沙汰もいい所だよ。でもさ、もう産むわけじゃないし、しなくてもいいかって。」
「どうして?廉野さん素敵じゃん。綺麗だし優しいんでしょ?この間見かけたけど、あんまり老けないよね、あの人。」
そうなのだ。
雅は、特に若作りしているわけではないのに、見た目が若い。40を過ぎた今も、無理をすれば32、3歳と言っても通用してしまう。
若い上に美貌なのだから、ちとせが言うのも無理もない話だと思った。
「優しいは優しいけど、とにかく虚弱だからねー・・・何かあるとすぐに寝込んじゃうし。」
「そこはなっちゃんが守ってあげれば解決。」
思わずむっとして頬を膨らませるが、ちとせの方は涼しい顔だ。
「そう言うちとせは?ご主人て品証部の人なんでしょ。まだ見たことないんだけど。」
「もう何年もそんな色っぽい話はないわね。近頃じゃ触るのも嫌ってくらいよ。家族としては受け入れてるけど。」
「触るのもって・・・」
「仕事だけはしてくれて、お金さえ家に入れてくれれば他には何も望まないわ。今までだってなーんもしてくれなかったし。今更何かして欲しいとか思わないし。まあ最悪離婚したとしても、慰謝料と自分の稼ぎで健士と二人で生きていければ問題ない。・・・エッチしたい時もさ、夫じゃなくて、外注すればいいのよ。」
那智は目を見開いて驚いた。
ちとせの言葉に少しショックを受けたようだ。
「外注、すんの?どうやって?」
思わず身を乗り出してしまった。
「そりゃあ勿論、自分で外で探すのよ。もっといいのを。」
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