終止符を打つ日
実家へ戻り明日で一週間、ひろはいつ海外へ戻るのか教えてくれない。
今日、
無理矢理子供を作ろうとする卓也に力では勝てず私はずっとピルを飲んでいた。もうあんな生活は限界……。
ひろは逃げようって冗談混じりに言ってくれたけど自分でこの結婚に終止符を打つ。
『決着まだー?』
『今日こっちまで来るって』
『ふうん。僕に会いたい?』
『うん。でも逃げないでちゃんとする』
『今まで何年も会ってないんだから、へっちゃらでしょ。宿題出来たよ』
『宿題?』
『お願いリスト』
ひろからはこんな調子でLINEが来る。
今まで会ってないから会わなくてもへっちゃら……か。そんな事はない。自分勝手だけど、ひろに会いたい。
高良塚駅で、卓也に言われた喫茶店で待つ。
出来ればもう顔を見ずに終わりたかった。でもそんなことは許されないらしく喫茶店に入ってきた卓也をみて胃のあたりに、差し込むような痛みが走る。
「帆乃花……本当にもう無理なのか?なんとかならないか」
なんとかならないか?何ともならないからこうなったのに。
「もう、本当に終わりにしたい。二度とあなたと生きていける気がしない。絶対に…… 無理」
「あいつに会ったのか?」
「ひろのこと……それとこの離婚は関係ない。結婚前にあなたがついた嘘で、馬鹿な私が道を間違えただけ。だから……もう解放して」
「解放か、そんな嫌か。解放したらあいつのとこへ行くのか?」
「そもそも、ひろが生きてるのを知らない時から離婚届渡して話してきたよね?もしかして……あなたが駅でひろを落としたの?」
「……なんだよ。俺がそこまでするか?俺はこっちに居なかったし、知ってるだろ?」
「……はあ」
こんな話の内容でもこの人は威圧的……。もう溜息以外出てこない気がする。
「……はい。これ」
卓也は離婚届を差し出した。そこにはちゃんと名前も書いてある。
「俺を愛してないって言われたらさ、冷静に考えたら惨めになってよ。だから、別れてやるよ。その方が俺も幸せだしな」
「……分かった」
「現住所の区役所でしか出せないから、俺が出しとく」
「…………」
「なんだよ。疑わなくてもちゃんと出すから」
悲しさや虚しさもなく、喜びというよりは、肩が軽くなった気がした。これ以上卓也を責めたり、自分の選択を後悔するのも止めようと思った。そう思えたのはきっと、ひろが生きているから。
店を出た時、モールから歩いてくるひろがいた。きっと心配して来ちゃったんだ……。卓也はすぐに気づいた。気づくなり、ひろに詰め寄った。
「お前さ、しつこかったな。俺が思った以上に」
「……別れましたか?やっと」
「はあ。ああ 後は提出するだけだ……満足か?」
「別に……。僕はただあの時ホームで押した人間分かってますからって言いに来ただけです。別れないなら、もっと色々出せますけど。もういいです」
「……お前、クズだな」
「クズ?どっちがだよ」
「あ?」
「死に方くらい選ばせろよ!!」
ひろが大きな声を出して、うずくまった。私はただビックリしてひろに駆け寄る。
「ひろ……どうしたの?大丈夫?ねえ、ひろ!」
「ああ、頭痛持ちなんだ……ちょっとトイレ行ってくる」
ひろは私の手を払ってトイレの場所へ向かった。
「おい、帆乃花!」
卓也が呼んだけど私もひろの後を追う。
卓也はそれ以上追ってこなかった。トイレの前の椅子で待つことしばらく、やっとひろが出てきた。
「ひろ、頭痛?大丈夫?」
「うん。今日は帰る……ごめん 帆乃花」
よほど頭が痛いのか、片目を少し瞑るようにし、ひろはただ帰るという。
「送るよ。大丈夫じゃなさそうだから」
「大丈夫。よくあるんだ……頭痛薬飲んだら治るから」
頼りない背中を見送った。本当に大丈夫なのか、もしかしたら途中で具合が悪くなったりしないか。高校時代にバイクで事故を起こした時も、誰かに殴られた後も毎回ひろは私に言わなかった。思い出すと途端にもっと不安で心配になる。
『家についた?大丈夫?』
『うん。薬のんだから眠れば治る。起きたら連絡するね』
『ゆっくり寝てね』
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