そこは楽園だったのかもしれない
結局終点まで行く度胸はなく適当に下車した。とりあえず入ったファミレスに、漫画喫茶。帆乃花に買うプレゼント用のお金が消えていく。僕らは一番安いホテルに泊まる。何歳かと聞かれ20歳と21歳だと嘘をついた。
「やばいね。止まれても二泊かな」
「私ATMでおろせるよ お金」
「駄目だよ。帆乃花のお金は使わない」
鳴り止まない携帯が二台。
そのうち充電が切れそうだ。何も家出か駆け落ちみたいな事までする必要はなかった。冷静になれば分かることなのに僕は切れてしまいそうな細い絆を繋ぎ止めたかったのかもしれない。
「今日は、連絡しろとか、電話したりしないんだね」
「もう、一度はしたから……その結果がこれだから」
「ね、暗い顔は禁止ね。お風呂入ってゴロゴロしよう。せっかくだから」
「せっかくだからゴロゴロするの?」
「うん!」
無理してかナチュラルにか明るく振る舞う帆乃花はお風呂場へ行く。
「なにこれっ泡風呂用?バラのやつ投入しまあすっ」
バラ泡風呂を作ったらしい。
風呂上がり、宣言通りゴロゴロする。
「結局ただお泊りしに来たみたいだね」と帆乃花は肘をついてベッドで足をパタつかせながら言った。
「だね。どっか行きたかった?明日散歩してみよう。」
「うん」
「僕はさ……何処でもいいんだ。帆乃花が居れば、何処でも……」
そうだ。彼女のいる場所が僕の楽園。
「へえ〜嬉しいお言葉だわあ。じゃあ地獄の果てでも?」
「うん」
「じゃあ映画みたいに沈む船の中でも?」
「うん。もしさ、明日世界が滅びるってなったらどうする?」
「うーん……騒いで騒いであそこ行きたいとか何食べたいとか一瞬は考えるだろうね。でも、結局は会いたい人に会いに行くと思う。ひろは?」
「僕は……僕も大事な人といたい」
「それって私?」
「うん。帆乃花にとって僕が沈みゆく船なら……乗る?」
「難しい質問……沈まないように何とかする」
「僕も、船から脱出ボートで帆乃花と逃げる」
人は結局人が恋しい。物より食べ物より、少なくとも僕は帆乃花が居れば何も食べなくても生きられそうな気がする。
◇
僕らは、世界が明日終わるわけでもなく、二人でいるからとずっと食べずに生きられる訳でもなく、高校三年が抱える荷物はそれなりに大きい為、携帯の留守電の量にビビった為、おとなしく帰ることにした。
帰りの電車で、帆乃花は言葉数が減り窓の外速いスピードで過ぎていく田園の景色を眺めていた。
「疲れた?」
分かってた。疲れじゃない、不安だと。僕が無理にこんなことをさせて、親に怒られるのはひゃくぱー確定した。
「うーうん 大丈夫」
「やっぱり怒られるよね。益々会うなって言われる。会うな会うな星人が大量発生する。僕らはそれを生き延びる事ができるか不安だよ……」
「なにそれ ひろ」
少し帆乃花が笑った。もっと笑わせたかったけど僕は生まれつき笑いのセンスを持ち合わせていなかった。
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