咄嗟の逃避行
クリスマスのイベントも大したこともしないまま冬休みに入った。僕はあーちゃんに会い貯金の一部を貰う。
出来ればペアリングをなんて浮かれた思いつきにめったに弾まない僕の心は弾んでいた。
ショッピングモールに入るジュエリー屋さんで僕らは店内をウロウロするも値段に少々戸惑う。
「あのさ……ひろ」
気を使い過ぎる質の帆乃花の顔がちらつく、きっと値段を見ていらないというのだろう。
「どうした?」
「あのね……私、金属アレルギーなんだ。シルバーもダメ……」
「え?シルバーダメなら金?」
「うん K14とかプラチナとか……」
「…………」
K10のリングですら諭吉さんコースだった。僕らはそっと店を出た。
「う はははっはははっ」
そして店を出たとたん大笑いする帆乃花。
僕もつられて自分の子供っぽさに笑った。
その日は早く帆乃花を帰した。会うなと言われているのに遅くなどなれば大騒ぎされそうだ。もっと一緒に居たい欲求不満な自分を押し殺していつものバス停でバイバイする。
家まで歩こうと駅を抜けて橋を渡る、その先に
「帆乃花ちゃんの親怒ってたんだってな」
「…………」
「なんだよその目、別に俺は本当の事言ってるだけだし な?」
「そうだよな 佐々木だろ?卓也さんの彼女に手だしてよ。柄悪い癖にへらへらしてあの子にも手出して」
「帆乃花には手なんてだしてません。普通に付き合ってるだけです」
「は?」
「卓也さんの彼女だって別れてたんでしょ?あなたと付き合ってたとかも知りませんでした」
「……てめえ」
卓也さんは僕に殴りかかった。三発食らってさすがにイラっとしたが手は出さないって決めていた。
他の二人が調子に乗って僕の背中を突いて押す。
「やんねえのかよ。お前高校の前でぼっこぼこにしたんだろ?どっかの誰かを」
「……しょうもない」
「は?」
それから三人がかりで殴る蹴るを繰り返す。
アスファルトにくたばった僕を見て卓也さんが少し焦った顔をした。
「成人したあなた方がこんなことしたら問題ですね……誕生日遅いんで僕まだ17なんですよ」と僕は地面から睨む。
「…………」
「帆乃花にちょっかい出さないでください。黙ってますから……」
◇
家に帰ればまたケンカしたのかと軽蔑された。
◇
翌日帆乃花と僕は駅で待ち合わせをし出かけようとしていた。
そこへ血相を変えたうちの母親が来た。
「会わないって約束でしょ?」
「なんでだよ……付き合って会うことがそんなにダメなのかよ もう 意味わかんない」
「ほら帰りましょう。
「母さんは父さんに怒られるのが怖いだけだろ」
申し訳なさそうに帆乃花が母さんに挨拶をしようとしたとき僕は彼女の手を握り走った。何の解決にもならないのは承知の上で逃げたんだ。
僕には逃げる事しか出来なかった。
「ねっそれはそうとその顔……何?」
そう言われて昨夜の暴行事件を思い出した。そうだ僕は今酷い顔で帆乃花の隣で電車に乗っている。顔を洗ったときに痛みを感じる程度の擦り傷と打撲がある程度だけれど僕の顔を見入る彼女の目は真剣だった。
「大丈夫だよ……大した怪我じゃないし」
「まさか……お父さんに?」
「いや。転んだ」
「誰でも嘘ってわかるよ今のは……」
僕はその痛みも全部笑ってごまかした。ごまかしたんじゃないこんな痛みは大したものじゃなかった。
「どこ行く?」
「うーん……」
「終点まで行こっか」
「終点?ここどこですかみたいな僻地だったら?畑で野宿とか?」
「それも悪くないね……帆乃花は?今日帰る?」
「…………」
帆乃花は僕と関わることを反対されている。僕はあっちでもこっちでも存在を否定されているようなものだと僕の本質であろう自己嫌悪とマイナス思考に潰されそうだった。きっと僕は今少しでも冷たくされれば凍り付いてしまいそうな無力な目をしている。
「僕がもうちょっと我慢すれば帆乃花は全部上手くいくのに。ごめんね……僕とこうなったから。嫌なら……」
「帰らない」
四人掛けの電車のシートで帆乃花は僕の肩にもたれながらそう呟いた。肩に感じる彼女は軽やかで柔らかで、きっと髪の香りだけど花のように芳しかった。
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