第2話 アルバイトを探す
アルバイトをしてお金を稼ごう。そう思い立ち行動に移したのは合格通知が来た翌日の事で、さっそく僕はバイトの求人サイトにアクセスし様々な職種とにらめっこしていた。条件としては夕方以降の仕事で、2月、3月は出来ればがっつり仕事が出来て、4月以降は大学が始まるので勉強に支障が出ない程度に抑えられるような、そんな都合の好い仕事がよい。
色々な職種を眺めて考えたけれど、結局無難にコンビニのバイトをすることに決めた。コンビニなら条件が満たせそうだし、バイト経験がない自分でも仕事内容がイメージしやすく不安が少ないという理由もあった。バイトの求人サイトにはコンビニの求人も沢山あり、どこに行こうか迷うけれど、日払い可と書かれた求人を発見し、そこに応募することに決めた。
日払い可というのはありがたい。4月の頭の時点で、2月と3月の働いた分の給料を手に入れることができるので、4月に入ればすぐにゴールデンウィークの温泉宿の予約をすることができる。日払いでない場合は、給料日は翌25日が多いので、4月25日に温泉宿の予約をしようとしても、ゴールデンウィークは既に埋まっている可能性も高くなってしまう。よって日払いであることは、よくよく考えるとほぼ必須の条件といえる。
現在は2月に入って少し日が経つので、2月をフルに働くことはもうできない。なので2月の稼ぎだけで温泉宿に家族4人泊まれるだけのお金を稼ごうとすれば、深夜を含めた長時間労働が必要になってくるだろう。もしくは日程を夏休みにずらす方法もあるが、暑い夏に温泉というのもどうなんだと思う。
一応、夏と温泉というキーワードでネット検索してみると、そういう楽しみ方もあることはあるみたいだけれど。ゴールデンウィークか夏休みか自分がどちらに行きたいかを考えると、ゴールデンウィークに軍配が上がる。なのでやはり日払いの仕事をするのが良いだろう。2月に無理をするという方法も取りたくはないし。
というわけで僕は日払い可のコンビニにバイトの応募をするべく電話をかける。電話に出た店長と会話し面接の日時を決めて電話を切った。面接は3日後の昼からだ。僕は期待と緊張を胸に面接までの日を過ごすのだった。
☆
コンビニバイトの面接当日、接客業なので身だしなみに気を付けて、派手な格好は控え清潔感のある服装を心掛けた。また午前のうちに散髪に行って髪型も整えた。見た目は完全武装され、ばっちり決まっていた。僕は鏡に映る自分自身を眺め満足げに頷く。そろそろ家を出る時間だった。僕は遅刻しないように家を早めに出て、目的地であるコンビニに向かう。まずは最寄り駅まで徒歩で向かい、それから電車に乗って二駅ほど揺られてから下車する。そして駅を出ればもう目の前に目的地であるコンビニが見えていた。腕時計で時間を確認すると約束の時間の15分前くらいだったので、少し時間をつぶそうと周辺を歩いた。5分前にコンビニへ入ればよいだろう。
歩きながら面接で聞かれるだろう事について想いを馳せる。一応ネットでコンビニバイトの面接でよく聞かれる質問をあらかじめ調べておいた。まずは何より大事なのは志望動機だ。これについては正直に家族を温泉宿に連れていくお金がほしいからと答えればよいだろう。別におかしな動機ではないし、むしろユニークな動機で面接官の心に残るかもしれない。選ばれる身としては印象に残るほうが有利に働くだろう。
またシフトの希望もあらかじめ考えておいたほうが良いとの事なので考えてきた。週5で17時から22時までの時間が働きたい時間だ。2月と3月はそれでいいが、4月になって大学が始まったら勉強を重視したいので、頻度を減らしたい事も伝える予定だ。他にはバイト経験の有無を聞かれたり、いつから働けるかを聞かれたり、通勤時間を聞かれたりする場合があるらしい。
自分にはバイト経験はないので、そういう場合は興味があることを伝えればいいみたい。コンビニは接客業でもあるので、接客業に興味があるみたいなことを言っておけばよいだろう。いつから働けるかについては、すぐにでも働きたいと告げるつもりだ。家族4人を温泉宿に連れていく予算として12万円くらいを想定している。3月に1日5時間、週5、時給1050円でバイトするとして月に22日計算で11万5千5百円の稼ぎになる。それでは予定予算に少し届かない。予定ぴったりよりも多めに稼いでいたほうが、不測の事態に対応しやすいし、宿のランクも上がるのでできるだけ多く稼ぎたい。
そんなわけですぐに働きたいと思っているのだ。最後の通勤時間については家から20分くらいで到着するので、そんなにかからないので問題はないだろう。ありのままを答えておけばよい。
などと考えているとそろそろ時間がやってきた。遅刻してはいけないので、僕は足早にコンビニへと向かう。すぐに到着し、自動ドアをくぐると、店員さんにバイトの面接に来たことを告げるのだった。
☆
バイトの面接から1週間が経過して、コンビニの店長から電話がかかってきた。結果は採用で僕は晴れてコンビニ店員になることが決まった。さっそく明日から来てほしいといわれ、楽しみと緊張で鼓動が早くなる。僕は「明日からよろしくお願いします」と告げて電話の向こうへ頭を下げる。それから少し言葉を交わした後、「それでは失礼します」といって電話を切った。
僕は自室の真ん中で小さなため息を一つつく。これでまた一歩自分の計画が前に進んだと思うと気が楽になる。後はもう真面目に働いてお金を稼げば、残りは温泉宿を選んで予約すれば良い。温泉宿への旅行のことを、家族に告げるのはいつくらいが良いだろうか。まだ早い気がする。やはり給料が出て貯金が目標金額に達してからが良いだろうか。時期とすれば4月の頭くらいで、温泉宿の予約をするくらいの時期に告げよう。もしかしたら4月の頭の時点で予約するときに部屋が埋まっていて予約できない可能性もゼロではない。
初めてのことで、一体どれだけ前から予約したほうが良いかなど、まったく見当がつかない。ゴールデンウィーク期間中の部屋を予約するので、余計に人気がある所などは早くに埋まってしまうかもしれない。まあ、そうならないことを祈りつつ、4月の頭くらいに良い温泉宿が予約できそうなら、その時に両親に告げようと考えた。とりあえず今はバイトを始めることだけでも母に伝えておこうと思う。
僕は自室を出て居間へと向かい母を探した。母は居間でこたつに入りテレビを見ながら、せんべいを頬張っていた。ぼりぼりというせんべいを咀嚼する音が聞こえてくる。こたつの上ではせんべいの他に熱い緑茶が湯気を立てていた。
「母さん、ちょっといいかい」
僕が母に声をかけると、一口お茶をすすってから返事をする。
「なんだい武志」
「アルバイトをすることにしたから、言っておこうと思って」
僕もこたつに脚を入れながら告げた。
「アルバイト? 何のアルバイトだい?」
「コンビニのアルバイトだよ」
「いつから働くんだい」
「明日から来てくれと言われてるよ」
「明日? そりゃ急だねぇ」
「今さっき、採用の電話があったんだ」
「そうかい。ところで場所は遠いのかい?」
「別に遠くないよ。電車で二駅なんで、20分もあればいけるよ。もしかしたら自転車で行ったほうが早いかもしれない」
「そうなんだ。ところでまた何でバイトを始めようと思ったんだい」
「ちょっとお金が必要になってね。それにもう僕も大学生になるし、いつまでもお小遣いを貰うってのも悪いしね。これからは自分のお金は自分で稼がないと」
「そうかい。止めはしないよ。アルバイトすることはいいことだからね。社会勉強にもなるし。お小遣いはもういらないのかい」
「いらない。今払ってもらっているスマホ代も自分で払うよ」
「わかった」
話が一息ついたところで、母が湯呑に手を伸ばし、緑茶をすする。
ずずず、という音が居間に響く。
「まあ、がんばりな」
「うん」
それから僕は自室に戻り、明日に向けて気持ちを落ち着けることにした。
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