信じるも信じないも

『瞑想してる?』

「なんですか、急に。してないです」

『どうしてしないの?』

「どうして、とは?」

『芸能人とか、金持ちの社長さんとか、本屋さんとか、瞑想が大事って話は聞いたことあるよね?』

「ありますけど、なんていうか、スピスピしてて苦手です。というか、瞑想を始めたら自分がスピスピするんじゃないかって思うとなんか嫌です」


スピスピ。

スピリチュアルスピリチュアルって感じ。


『成功してる人たちがオススメしてることなのに? まずはやってみる、じゃなかった?』

「う……、」

『じゃあ、何が嫌なのか、具体的に考えてみよう』

「やっぱり、瞑想してる自分が、なんていうか、自分に酔いしれてる感っていうか、世間的イメージに偏りがあるというか。言葉にするのは難しいんですけど、友達に『え、お前瞑想とかしてんの?』っていう目で見られたくないというか」

『それは本当に友達ですか?』


そういえば、少し前に友達とそんな感じの話をしたんだった。

その子は、今の職場の給料がそれなりに良いんだけど、仕事がキツイから辞めたい。けれど、仕事を辞めたら彼氏に振られるんじゃないかと思うと怖い。新しい仕事を始めたとして給料が減るだろうし、前の仕事から二年程度しか経ってないから、すぐに辞めるやつだと幻滅されるかもしれない、と。ざっくり言うとこんな感じ。

そこで、私が答えたのは二つ。まず、起こってもいない悪い未来を考えて落ち込むことに意味はない、ということ。例えば防災のように先を見越して役に立つことなら考える価値はあるけれど、まだ次の仕事で給料が下がると決まったわけじゃないし、彼氏が幻滅するという確信もない。それに対して落ち込むことに意味はないんじゃないか。

もう一つは、もしもそんなことを言うような、彼女の体調やメンタルよりも金銭面を優先するような男なら、そんなのは彼氏じゃないから別れた方がいい、ということ。


私が瞑想をしたとして、それを否定的に思う人は本当に友達だろうか。

勿論、怪しい商売を始めたり、気が狂った言動ばかりし始めたらすぐに止めてほしいけれど。成功者が「良い」と言っているのだ。

みんなが「ダイソンの掃除機が良いよ」って言うから、私もダイソンの掃除機を買う。使ってみてダメだったら他社製品に変えよう。っていうのと同じじゃないだろうか。

やってもいないのに、言われてもいないのに、否定的な考えをしても……これも友達に言ったことと同じだ。


「数日前の自分の言葉が鋭いブーメランになって刺さりました……」

『まずは、』

「やってみる、ですね」


まさか数日前の自分に刺されるとは思ってなかった。

っていうか、今現在、彼氏のかの字もないのに、よくそんな偉そうに答えてんな私。振り返ってびっくりした。



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