自分の高校生時代。真っ直ぐに見つめ直したことはありますか?
漠然とした未来。自分が目指す将来が見えなくて、何をしたらいいかわからないまま、周囲の流れにただ乗っているだけ。そんな曖昧な思いを抱えていた人も多いのではないかと思います。
あの時、もっと何かを考えられていたらよかったんだろうか。何かに出会えていたらよかったんだろうか——自らの高校時代を思い返すたびに、そんなほろ苦い気持ちがふっと蘇ったりします。
この作品の主人公は、漠然とした選択肢を手探りするもやついた時期に、ある大切な人から、大切な「思い出」を引っ張り出してもらいます。それは過去の少女だった彼女にとってひたすら痛くて、固く封印してしまいたかった出来事で。
彼女の心のモヤつきと、胸の奥に閉じ込めたものが再び輝き出す喜び。そして、そんな彼女の心の揺れ動きを温かく見守る周囲の人々。彼女を取り巻く温かでおおらかな愛情こそが、彼女を明るい方へ導いたのだろうという気がします。
高校時代ならではの感情の初々しさ、もどかしさ。少しずつ芽吹き、色づいていく異性への想い。あの時代にしか訪れないいくつもの情景や心情が、生き生きと輝くように描写されています。
爽やかな風が吹き抜けるような瑞々しさに満ちた、青春時代の尊さをシンプルに肌で感じられる作品。おすすめです。