54冊目 ポルターガイスト

 あるところにポルターガイストに悩まされている男がいた。

 男がポルターガイストに悩まされ始めたのは、大学進学をきっかけに一人暮らしを始め、彼女も出来て幸せを感じ始めたばかりの頃だった。

 初めはリビングのテーブルに置かれていたリモコンが独りでに落ちたり、自室のスタンドライトが触ってもいないのに倒れたくらいだった。

 しかし、日が経つにつれて開きっぱなしにしていたノートに『わかれて』と丸っこい字で書かれたり、外には誰もいないのにも関わらず玄関を強く叩かれたり、と起きる現象の種類は増え、それに男は恐怖していた。

 幼い頃には何も無かった事から、借りている賃貸の一室が事故物件なのではないかと疑ったが、それらしい情報は何も得られず、男が大学で出来た友人に打ち明けると、友人は男の話を真剣に聞いた後、一度ノートでメッセージのやり取りをしてはどうかと提案した。

 男はその提案におとなしく頷いたが、うまく行くとは思っておらず、半信半疑で謎のメッセージの下に誰なのかや何を目的でこのような事をしているのかと書き、しばらくノートを放置した。

 そして数時間後、ノートを見に行くと、そこにはまた丸っこい字で『あなたの守護霊』と『あなたを守るため』と書かれていた。

 その返事に驚きながらも男は首を傾げていると、ノートの傍に置かれたペンが独りでに動きだし、『あの人は危ない』と『いつもあなたを見ている』と書き始めた。

 守護霊からの更なるメッセージに男は心臓がバクバクとなるのを感じ、その下にあの人の正体について問うメッセージを書いた。

 すると、その下には『あなたの彼女』と『今もクローゼットの中にいる』と書かれ、そのメッセージに男が戦慄していると、クローゼットから突然ガタガタッという物音が鳴り、男がクローゼットに視線を向けた瞬間、クローゼットから男の彼女である女性が倒れこんできた。

 その後、男は女性を拘束しながら警察に通報し、駆けつけた警察によって女性が連行されていくと、男も事情聴取を受けるために警察署へと向かった。

 数時間後の深夜、男が疲れながらも帰宅した後、自室に戻って息をついていると、ふとノートに目が行き、男は少し安心したように微笑んだ。

 そして、ノートに守護霊に対しての感謝とこれまでに怖がった事への謝罪を書き込むと、しばらく間があった後、『お兄ちゃんが無事でよかった』と書き込まれ、そのメッセージを見た男は守護霊の正体を知ると同時に嬉しさと安心感で涙を流した。

 その後、男は再び別の女性と交際を始めたが、守護霊である妹からは危険ではないと判断されたのか危険を報せるようなポルターガイスト現象はそれ以降は起きなかった。

 しかし、それ以降も男は彼女にその事を打ち明けた上で妹の霊との筆談を続け、寿命で亡くなるその日までそれは続いたが、亡くなる直前の男の顔は非常に穏やかでまるで大切な相手に微笑んでいるかのようだったという。

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