55冊目 星を超えた絆

 あるところに宇宙人と出会った男がいた。

 宇宙人と男が遭遇したのは、幼い頃に田舎にある祖父母の家に帰省し、裏山に一人で探検に出掛けた時だった。

 当時、男には一緒に遊ぶような友人が田舎にはおらず、同い年の子供達とも中々打ち解けられなかった事から、男は暇をもて余して昼食後に裏山へ探検をしに行ったのだった。

 出発から十数分後、何か無いかと思いながらしばらく歩いていたその時、足元に強い揺れを感じ、地震かと思いながらその揺れに耐えている内に揺れは止み、男は立ち止まったままで何事かと考えながら辺りを見回した。

 すると、どこからか電子音のような物が聞こえる事に気づき、男は音を頼りにその先にある物を見るために再び歩き始めた。それから数分後、何本もの木が生えた小さな広場のようなところへたどり着くと、そこには円盤形の銀色に輝く大きな謎の物体とその前で肩を落とす銀色の人間のような物がいた。

 男はその光景に驚いたが、それ以上に好奇心が沸いたため、そのまま近づいていった。その足音が聞こえたのか人間のような物はゆっくりと振り返ると、男の姿に驚いた様子を見せ、両手を前に出し男に対して止まるようにサインを出した。

 男はそれに従って足を止めると、謎の物体と人間のような物の正体について訊ねた。人間のような物は答えるのを躊躇ためらった様子だったが、やがて諦めたようにため息をつくと、謎の物体は自分が乗っていた宇宙船で自分は宇宙を一人旅していた気ままな旅行者だと答えた。

 その返答に男が驚いていると、旅行者は一瞬自慢気に胸を張ったが、すぐにまた肩を落とすと、宇宙船がこの辺りを通った際にスペースデブリからの衝突によって操縦不能になって、そのまま墜落したのだと話し、とても落ち込んだ様子で宇宙船へと視線を戻した。

 その話に男は驚いてばかりだったが、徐々に旅行者が気の毒に思い始め、自分に何か出来ないかと申し出た。旅行者はその申し出を断ろうとしたが、男の目から宇宙船や旅行者に対して何かしたいという意思と男が無意識に感じていた寂しさを感じ取ると、ため息をついてから裏山に散らばったと思われるパーツの回収の手伝いを頼んだ。

 男はその頼みを快く引き受けると、旅行者と協力しながら裏山のあらゆる場所を巡り、散らばっていた宇宙船のパーツを探し始めた。

 そして数時間後の夕方、パーツが全て揃うと、旅行者は男に対してお礼を述べてから嬉々として宇宙船の修理を始め、男は初めこそ見ていただけだったが修理も手伝いだし、二人はまるで旧知の仲のように楽しげに話しながら修理を続けた。

 修理が終わったのは空に星が輝き出した頃であり、修理によって完全に直った宇宙船を前に男は心地よい疲れを感じながらその場に座り込み、旅行者は嬉しそうに宇宙船を眺めてから男に対して再びお礼を述べると、お礼に少しだけなら宇宙船に乗せても良いと言った。

 それに対して男が喜び、乗りたいという気持ちを伝えようとしたその時、中々帰ってこない事を心配した両親が男を探す声が聞こえ始め、男がガッカリとしながら俯く中、旅行者は残念そうに微笑んでから男の肩にポンと手を置いた。

 そして、旅行者は今は出発しないといけないけれど、また会えた時には今度こそ宇宙船に乗せると約束し、それに対して男が頷いてから宇宙船に乗り込むと、男を探す両親には気づかれないように明かりを消しながら離陸し、そのまま空の彼方へと飛んでいった。

 その後、男を見つけた両親から今まで何をしていたのかと問われたが、男は旅行者と過ごした時間については隠して気づいたらここにいたと答え、不思議がりながらもそれに納得した両親と共に祖父母の家へと帰った。

 それから男は再び旅行者と会うためには地球周辺の環境を整える必要があると感じ、成長後はスペースデブリの撤去などを熱心に行い、その功績は世間から大いに称えられた。

 その後、男は寿命が尽きるまでに旅行者と再会する事はなかったが、将来人間が再び旅行者や他の宇宙人と友好的な関係になれるように願いながらその生涯を閉じたという。

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