53冊目 越えた一線

 あるところにサポート用のロボットを作ろうとした女がいた。

 女がロボットを作ろうと思い立ったのは、老化で足腰が不自由になった祖父母の姿を見て、生活を支えてくれる物があれば良いと感じたからだった。

 その翌日から、女は学校の勉強の傍ら、ロボット工学についても学び始めた。まだ幼かった女に様々な用語やプログラミングは難しかったが、祖父母がロボットに支えられながら笑顔で生活する姿を想像し、その願いを叶えるために女は自分なりに噛み砕きながら日々学習に励んだ。

 そんなある日、女は学んだ技術や知識を活かして一台の小さな蜘蛛型ロボットを作り上げた。蜘蛛型にしたのは、蜘蛛という生き物に興味を持ったからでもあったが、人型のロボットよりも狭いところにも入っていける事で、そこに何かを落としても容易に拾ってこれると考えたからだった。

 そして、その試運転はうまく行き、その成果に作った女はもちろん、両親もとても喜び、女は結果から改善点などをまとめ、それを元にしながら様々なロボットを作り出していった。

 そんなある日、女がロボット作りに励んでいると、そこに両親が青ざめた顔で現れ、その様子に女が不安を感じながら何があったのかと問いかけると、両親は祖父母が轢き逃げに遭い、病院に運ばれたと話した。

 その事に女は驚き、心配と不安で押し潰されそうになりながらも両親と共に病院へと駆けつけ、医者から話を聞こうとしたが、医者は哀しそうに首を横に振り、女と両親はその場で崩れ落ちながら祖父母の死に嘆き悲しんだ。

 その後、祖父母の葬式が執り行われる間に轢き逃げの捜査も行われていたが、逮捕された犯人は反省の色を見せず、悪いのは轢かれた側だと主張していたため、それを聞いた女の中には犯人に対しての憎しみと恨みの炎が燃え始めた。

 そして、女は葬式や火葬が済んだ後に一台のロボットを作り上げると、操作するためのコントローラーとロボットを持って、事前に調べ上げていた犯人の家族の家の近辺を訪れ、息を潜めながら物陰に身を潜めた。

 それから数分後、少し暗い表情の女性と男児が歩いてくると、女はコントローラーを使い、持参していた蜂型のロボットを操作し始めた。

 蜂型のロボットは音も出さずに女性と男児の元へ飛んでいくと、八の字を描きながらその周りを飛び回り、どうにか追い払おうとする女性の腕と不安で今にも泣き出しそうになっている男児の顔や腕に針を刺した。

 そしてそれが終わると、女は痛さで泣き始める男児と自身も痛みを感じながらもそれをどうにか宥めようとする女性の姿に罪悪感を抱きながらもロボットを回収してからその場を後にした。

 それから数日後、女が朝に起き出してくると、テレビではニュース番組が流れており、女はボーッとその番組を見ていたが、あるニュースが流れた瞬間、女は後悔と哀しみでいっぱいになった。

 そのニュースとは、一人の子供が昨晩病院で亡くなったというニュースであり、その子供というのが女が蜂型のロボットで襲った子供だったが、その名字は女の祖父母を轢き逃げした犯人の名字ではなく、その近所に住むまったく関係の無い家庭の子供だった。

 テレビには哀しそうにしている両親の姿が映り、その日、暗い表情だったのは近所の住人が轢き逃げの犯人だった上に反省の色がまったく無かった事でその家族の辛さについて話していたからであり、女は人違いで自分も一人の人間の命を奪ってしまった事にショックを受けた。

 そして、朝食を食べた後に自室に戻ると、女は人の生活を助けるために始めたロボット作りを利用して一人の命を奪った事に強く後悔し、自身の行った事やロボット達は今度こそ誰かのために使ってほしい旨を書いたメモを残した。

 その後、部屋のあらゆるところに置かれたロボット達一台一台に謝罪と別れを告げると、女は射的用ロボの装備として作っていた簡易的な拳銃と弾丸を手に取り、弾を装填してから涙を流しながらこめかみに銃口を突きつけた。

 そして、亡くなった祖父母への謝罪の言葉を口にしてから引き金を引き、そのまま頭を撃ち抜いてこの世を去ったという。

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