50冊目 dream again if

 あるところに野球選手を志した男がいた。

 男は幼い頃から運動が得意というわけではなく、体育の授業や運動会の際は憂鬱で仕方なかったが、いつまでもそれではいけないと感じ、運動に慣れるために近所の少年野球チームへと入った。

 そして、慣れないながらも努力を重ねた結果、男は投手としての才能を開花させ、投手としての実力を更に上げていくと、高校生になる頃には他のチームから注目される程の名投手となり、プロの選手になるという夢を抱くようになっていた。

 しかし、高校三年生の夏に男は肩を壊し、リハビリをしたものの以前ほどの球を投げられなくなった事で、男はその夢を諦める事になった。

 自身の夢と誇れる物を失った男は元気を無くし、クラスメートや部員、マネージャー達が心配する中、男の野球の腕だけを見ていた生徒達は次々と離れていき、男は元気を取り戻す事無く高校を卒業し、そのまま野球から離れていった。

 その後、地元で職に就いた男は、同僚達や新たに出来た友人達との毎日を楽しんでいたが、野球を忘れる事は出来ず、試合の観戦などをする度に自分の中にモヤモヤとした物がある事に気づき、辛さを感じる日々を送っていた。

 そんなある日、気分転換に散歩をしていた男は、河原でバットの素振りをする少年を見かけた。男は少年が頑張る姿を微笑ましそうに見ていたが、やがてその少年の姿にかつての自分が重なると、いてもたってもいられなくなり、少年へ近づいて声をかけ、少年から話を聞き始めた。

 そして、その日から男は週末限定で少年の野球のコーチを引き受ける事になり、自分がこれまでに身に付けてきた技術や知識を少年に教え、少年もその教えを素直に受け入れると、メキメキと上達していった。

 その後、少年は男の教えによって試合で大活躍をし、その事について嬉しそうにお礼を述べる少年を目を細めながら見ていたが、その内に男の中にはある夢が生まれ、男はその夢に向かってゆっくりと歩き始めた。

 それから数年後、少年野球チームのコーチとなった男は、将来プロの選手として活躍したいと願う少年達を育て、高校時代に野球部のマネージャーとして支えてくれていた女性と結婚し、その間に生まれた子供とも幸せな毎日を過ごした。

 そして、男が育成した少年達がプロの選手として次々に活躍した事で、男は名コーチとして世間から名前を知られ、男が天寿をまっとうした後もその名前は様々な人々の中に刻まれ続けたという。

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