49冊目 命の重さ

 あるところに死神と出会った女がいた。

 女は幼い頃から体が弱く、入院をする事も少なくなかったため、友達もあまり作る事が出来ず、女はそんな毎日に少し寂しさを感じていた。

 両親もそんな娘を気遣い、積極的に会話をしたり入院時には仕事の前と後には必ず顔を出すように努めたりしていたが、女は嬉しさを感じると同時に申し訳なさも感じていた。

 そんなある日、入院中の女がうつらうつらとしていた時、ふと横を見ると、そこには黒いローブを着た見慣れない男性が立っており、その姿に女が驚く中、男性は女をチラリと見てから気だるそうに話を始めた。

 突然現れた男性は自分は死神であり、死期の近い人間を探しに病院を訪れ、良さそうな人間を見つけた帰りに偶然見つけたのが女で、何故だか興味が湧いたから病室へと入ってきたと話した。

 男性が死神だと聞き、女は男性に対して怯えた様子を見せたが、男性はため息をついてから女からはまだ死の匂いはしないと言い、死期が近くない人間の魂を取るのはルール違反だから安心するようにと伝えた。

 その言葉に女はホッとすると、徐々に死神の男性に対して興味を持ち始め、死神の男性が病院を後にしようとするのを止めてから自分の友達になってくれないかと頼んだ。

 女からの頼みに死神の男性は呆れたようにため息をついたが、どこか面倒くさそうにそれを了承してから姿を消すと、女は死神の男性の返答に喜び、その翌日から死神の男性が来るのを楽しみに待つようになった。

 そして、女からの頼みを面倒だと考えていた死神の男性だったが、自分が来ない事で女が落胆する様子を想像し、胸の奥がモヤモヤとする事に気づくと同時にそれに対して嫌悪感を覚えたため、女が退院するまでの間、女の病室を訪れては軽く雑談をして帰り、退院後も女の元を度々訪れるようになっていた。

 そんな生活を続けていたある日、いつものように訪れた死神の男性と雑談をしていた女だったが、死神の男性と会える事に喜びを感じ、ずっと死神の男性と一緒にいたいという想いが自分の中にある事に気づき、その想いについて考えた結果、それが死神の男性への恋心であると結論づけた。

 その翌日、女は死神の男性との雑談の途中で話を一度中断すると、自分の中にある恋心を打ち明け、自分の恋人になって欲しいと頼んだ。

 しかし、それに対して死神の男性は首を振り、人間と死神では恋人にはなれず、本当に自分と恋人になりたいのならば人間である事をやめて同じ死神にならないといけないと告げた。

 その言葉を聞いた女が考え込む姿を見て、死神の男性は流石に女も諦めるだろうと考えたが、その予想に反して女はそれでも良いから自分の恋人になって欲しいと言い、そのためならば自分の命すらも惜しくないと答えた。

 その返答に死神の男性はいつものような呆れた様子ではなく、明らかな怒りを見せた後、自分の命を軽んじる者に他人を好きになる資格はないと言い、本当に自分と恋人になりたいのならば、しっかり人生を生きてみせろと言ってから姿を消した。

 そして、その翌日から死神の男性が姿を見せる事はなくなり、女は酷く落ち込んだが、死神の男性の言葉を思い返した後、元気を取り戻すと、体を丈夫にするために様々な事に取り組み始めた。

 それから数十年後、老人となった女が夫や子供、孫といった家族に看取られながらその生涯を終えた時、近くにあの死神の男性がいる事に気づき、嬉しそうに近づきながらこれまでの人生についてまるで子供のようにはしゃぎながら話を始めた。

 死神の男性はそんな女の様子にため息をついたが、その表情はどこか嬉しそうであり、女が自分の人生をしっかりと生きた事を認めると、女の手を取りながら揃ってどこかへと消えていった。

 その後、女が亡くなった病院で死期の近い人間の元に死神が姿を見せたようだったが、その死神は少し気だるそうな男性とその腕に自分の腕を絡ませながら嬉しそうにしている活発そうな女性の二人で、その姿はどこか幸せそうな物だったという。

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