48冊目 伝えたい想い

 あるところに幽霊に会いたいと願った男がいた。

 男が幽霊に会いたいという願いを持ったのは、幼い頃に出会い、毎日遊ぶ程に仲が良くなった少女がきっかけだった。

 その少女には妹がおり、男はその妹とも仲良くなったが、妹は小学生の頃に事故に遭って命を落とした。その死に少女の家族は深い哀しみに暮れる中、少女の妹に対して秘かに恋心を抱いていた男はどうにかまた会いたいという思いを抱くと、幽霊を視たり出会ったりする方法について調べ始めた。

 しかし、霊感の無い男は幽霊を視る事が出来ず、幽霊に出会うための方法として見つけた情報はどれもガセだったため、男はその事実に絶望し、また出会うのは不可能なのでは無いかと思うようになっていた。

 そんなある日、高校生となった男は少女から近所にある公園に呼び出されると、愛の告白をされた。少女は男が妹を好きだった事を知っていたが、妹が亡くなって数年経った今でも男への想いを捨てる事が出来ず、いつまでも秘めるよりはいっそ言ってしまった方が良いと感じて告白へと踏み切ったのだった。

 しかし、男はその告白を断り、今でも少女の妹の事を想っている事やその姉である少女の事はあくまでも幼馴染みとして見る事しか出来ないと言うと、少女はその言葉に涙を流しながらその場を走り去っていき、男は申し訳なさを感じたもののすぐにまた少女の妹と再会するための方法を探し始めた。

 それから数ヵ月後、自室で眠っていた男がふと目を覚ますと、そこには幼い頃に亡くなった少女の妹の姿があった。

 男はとても驚いたが、それ以上に嬉しさを感じており、再会出来た喜びを妹の霊へと伝え、もうどこにも行かないで欲しいと頼んだ。

 しかし、妹の霊は微笑みながら首を横に振った後、会いに来たのはもう自分と会おうとするのは諦めて、姉である少女と一緒に楽しい人生を過ごして欲しいと頼みに来たからだと告げた。

 妹の霊のその言葉に男は嫌だと答えようとしたが、妹の霊の哀しそうな目を見て考えを変えると、その頼みに対して頷き、妹の霊が嬉しそうに笑いながら消えた後、男はもう妹の霊に会えない事に涙を流した。

 その後、男は少女に対して妹の霊に会った事や少女と一緒に楽しい人生を過ごして欲しいと頼まれた事を話すと、やはり少女の想いには応えられないが、また一緒に遊んだり出掛けたりしながら少女の事を改めて知っていきたいと告げた。

 その言葉に対して少女が嬉しそうに微笑んだ後、二人は早速外出し始め、お互いに相手を知るために様々な場所へ行き、楽しい時間を過ごした。

 それから数年後、男が少女に対して恋心を抱いた事で二人は恋人同士になり、その後更に関係を深めた二人は結婚し、その間に一人の女の子をもうけると、二人は相談をした上で娘に対して自分達と少女の妹の名前を組み合わせた名前をつけた。

 そして、寿命で亡くなるまで男は妻や娘を含めた家族と幸せに暮らし、亡くなる直前は誰かに対して語りかけながら優しい笑みを浮かべていたという。

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