46冊目 蛇神の生け贄

 あるところに神の生け贄にされた女がいた。

 女が住む村では古くから水を司るとされる一柱の蛇神が信仰されており、その神が村を見守っているとされていた事から、村人達は神を喜ばすために度々儀式を行ったり祭りを催したりした。

 しかしある年、村に中々雨が降らないという出来事が起こると、それによって作物が育たなくなり、この事態に村人達は神が生け贄を求めているのだと口々に言い始めた。

 その結果、神に生け贄を差し出す事に決めると、先日両親を亡くした事で身寄りが無くなり、村の主だった者達から厄介者として扱われていた女がそれに選ばれた。

 その日から、神の生け贄に相応しい存在になるために食事を特定の物に制限された上に神が好むとされる体型になるように様々な運動を強制され、神が食物とする前にその身を欲した際に喜んでもらえるようにと様々な房事ぼうじの技術を仕込まれた。

 そして当日、村人達が本心を隠しながら笑顔を浮かべて見送る中、女は神が食らう際に衣服は邪魔だという村人達の意見によって何も身に付けずに神が住まうとされる山奥へ向けて一人で歩き始めた。

 山道はとても険しく、装備も無しで歩くには明らかに不向きだったが、女は村に戻るわけにはいかなかったため、辛さや足の痛みを堪えながらひたすら山中を歩き続けた。

 そして出発から数十分後、女の目がかすみだし、出発直後はしっかりとしていた足取りもおぼつかない物へと変わったその時、女は足元に転がっていた石につまずき、そのまま倒れこむと、疲れによって静かに意識を失った。

 その後、女はどこからか聞こえる綺麗な音色と体に感じる柔らかな感触で目を覚ますと、そこは自身が意識を失った山中ではなく、どこか神秘的な雰囲気を感じさせる部屋の中であり、自身も綺麗な着物を身に纏っていたため、女は命が助かった事に安堵すると同時にここはどこなのだろうと不思議がった。

 すると、閉まっていた襖が突然スーッと開き、銀色の着物姿の長い青髪の青年が現れた。

 その青年の綺麗な顔立ちに女は見惚れていたが、すぐに気持ちを切り替え、助けてくれた事への感謝の言葉を口にすると、青年はそれに対して礼には及ばないと答えた後、自身の正体などについて話し始めた。

 青年は女の村に伝わる蛇神が人の姿を取った物であり、少し眠っている間に神使が山中で倒れている女を見つけたため、神使に女の世話を頼んだ後、どういう事なのかと思い村の様子を探りはじめた。

 そして、自身が望んでもいない生け贄を差し出して来た事、厄介者として扱っていた女をようやく追い出せたと喜んでいた事を知り、蛇神はたいそう憤慨し、自身の神力を用いて大雨を降らせて村を水没させたと話した。

 その話に女が驚き、生け贄として求められていない事に不安を感じていると、蛇神は微笑みながらその手を取り、それならば自身の妻としてここに住めば良いと言い、女がそれを了承した事で女は蛇神の妻となった。

 その後、女は蛇神との間に子を成し、寿命で人としての生命を失った後も夫である蛇神と子達と共に蛇神の屋敷で幸せに暮らしているという。

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