45冊目 隠した呪い

 あるところに呪いを好ましく思っている女がいた。

 幼い頃から幽霊や呪いといった物に強い興味を持っていた女は、常日頃から呪いを誰かにかけてみたいと考えており、いつでもその機会が来てもいいように部屋の中には藁人形わらにんぎょうなどを置いていた。

 そんな女は周囲からは距離をおかれ、両親からも将来を心配されていたが、女自身はそれをまったく気にしておらず、呪いのかけ方やその歴史などについて日々しらべの続けた。

 そんなある日、道を歩いていた女は一人の男性とすれ違ったが、その際にお互いの肩がぶつかると、男性はイラッとしたようにチッと舌打ちをしながらじろりと睨み、鼻を鳴らしてからわざとらしく足音を立てながら去っていった。

 そんな男性の態度に女は憤慨したが、こっそり抜いておいた男性の髪の毛を見ると、嬉しそうにニヤリと笑い、そのまま家へと帰った。

 その夜、女は数本の蝋燭ろうそくをつけた五徳を被った白装束姿で近くの神社に来ていた。その手には一本の髪の毛が入れられた藁人形と小型の金槌が、そして数本の五寸釘が入った小箱を持っており、女はにやにやとしながら一本の木に近づいた。

 木の前に立つと、女は小箱から五寸釘を取り出してから藁人形を木に押しつけ、指で挟みながら藁人形の腹部に先をつけていた五寸釘をもう片方の手に持った金槌で叩き始めた。

 女が五寸釘を金槌で叩く度に静まり返った神社にその音が響き渡り、五寸釘が藁人形の中へ入っていく度に女の表情は邪な物へと変わっていった。

 そして、最後の五寸釘を藁人形へ打ち終え、女が満足げに頷いてから小箱と金槌を手に持って神社を後にして家へ向かっていたその時だった。

 女の体は突然宙を舞った。居眠り運転によって信号無視をした車が女を勢いよくはねたのだ。宙を舞っていた女の体は強く道路に叩きつけられると、骨が折れ曲がった事で腕や足はあらぬ方向へと曲がり、頭や体から流れ出た血で白装束は徐々に赤く染まっていった。

 その事故で女は命を落とし、女の自室からあらゆる呪いの道具や女が行った丑の刻参りのメモなどが見つかった事から、亡くなった夜に女が釘を打った藁人形も発見された。

 しかし、それと同時にまた別の藁人形が七つ発見された。その藁人形達は女が用意した藁人形とは違い、五寸釘が打たれていただけではなく、中には女の名前と死を願う言葉が書かれた髪と女の髪の毛が入れられ、顔の部分には女の顔写真が貼られていたという。

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