36冊目 聖剣の創り手

 あるところに聖剣を打とうとした女がいた。

 女が聖剣を打つ事を志したのは、幼い頃に聞いた勇者の伝説がきっかけだった。その伝説を聞いた子供達は皆が勇者やその仲間達の勇姿に目を輝かせていたが、女だけは勇者が振るっていたという聖剣に目を輝かせた。

 女神によって創り出され、その祝福を受けた勇者のみが所持を許された破邪の剣。女は伝説内で語られるその聖剣の魅力に取り憑かれると、いつか自分も聖剣と呼ばれる程の名剣を打ちたいと考えるようになっていた。

 女のその願いに両親は驚き、他の職業に興味は無いのかと問いかけたが、女はどの職業にも首を横に振り、聖剣と呼ばれる程の名剣を打つために鍛冶師になりたいと語った。

 その熱意に両親は諦めた様子を見せると、女の夢を応援するようになり、あらゆる鍛冶師が書いたという本や鍛冶の指南書などを買い与え、女はその両親の支援に感謝しながら日々鍛冶師になるための努力を重ねた。

 それから数年が経った頃、周囲の子供達が剣や魔法について学ぶためにそれぞれの学校に通い始めたのに対して女は街の鍛冶師の元を訪れ、自分を弟子にしてほしいと頼み込んでいた。

 鍛冶師は女の訪問に驚くと同時に鍛冶師を生業なりわいとする上での辛さなどについて語り、それを耐えていくだけの覚悟があるかと問いかけた。しかし、それに対して返答をする女の言葉と目には迷いは無く、その姿に鍛冶師は仕方ないといった様子で息をつくと、女の弟子入りを認めた。

 その翌日から女は鍛冶師の仕事を手伝いながらその仕事振りを細かく観察し、早朝や仕事終わりには鍛冶師からの教えを元に様々な物を打つといった生活を始め、その内に女は鍛冶屋の看板娘と呼ばれ出し、鍛冶の腕もみるみる内に上達していった。

 そして、鍛冶師としての修行を始めて数年が経った頃、鍛冶屋に一人の騎士が訪れた。その騎士は遠方に棲むとされる魔物を討ち取る任務を担っていたが、そのために剣を多く用意したいと考え、鍛冶屋を訪れたのだった。

 しかし、頼まれた剣の数が多かったため、鍛冶師は依頼にはあまり乗り気ではなく、その依頼を断ろうとしていたが、それに対して女は目を輝かせると、鍛冶師を説得してその依頼を引き受けさせた。

 そして、女は鍛冶師と共に依頼を受けた剣を打ち始め、その数日後に剣は騎士へと引き渡された。剣の出来映えに騎士は大層喜び、後日改めて礼を言いに来ると言うと、剣の代金を置いて剣を持ち帰っていった。

 騎士の喜びように女が嬉しそうにする中、鍛冶師は女の打った剣の出来映えがあまりにも良かった事に驚くと同時に女の事を褒め、それに対して女はくすぐったそうにしていた。

 それから数週間後、女がいつものように鍛冶屋での修行に励んでいると、そこに騎士が訪れた。騎士の来訪に女が微笑みながら挨拶をしたその時、満面の笑みを浮かべながら騎士が女の両手を取り、女は驚くと同時に顔を赤らめると、騎士は笑みを浮かべながら話を始めた。

 受け取った剣を持って騎士は同じ騎士団の団員と共に魔物の討伐に向かった。そして、激戦の末に魔物の討伐は果たせたが、その戦いの際に活躍したのが、女の打った剣であり、その中でも騎士が使っていた剣は魔物の攻撃を受け止めたりその身を切りつけたりしても決して壊れなかったという。

 そして、騎士団の団員達や国王達はその剣を伝説の聖剣のようだと評し、その剣を打った者に褒美を賜らせたいと言っていると聞き、女はそれを光栄だとは思ったが、騎士に対して微笑みながら褒美は辞退し、その分を国民達の生活のために使ってほしいと言った。

 騎士は女の願いに笑みを浮かべながら頷くと、それを国王へと伝えた。国王はその願いに驚いたが、快くそれを聞き届け、国民達の生活は以前よりもよくなり、女の住む城下町も活気に溢れるようになった。

 その後も女は鍛冶師と共に鍛冶屋で働き、騎士団や兵士達の武器を打つ傍らで日常的に使う刃物なども扱うようになった事で、女の名前は他国にも知れ渡った。しかし、どんなに名声を得ても女は決して驕らず、騎士やその間に生まれた子供達と共に幸せに暮らしたという。

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