34冊目 ジャイアントマリオネット

 あるところに巨人の門番を作ろうとした男がいた。

 男が巨人を作ろうとしたきっかけは、幼い頃に読んだ一冊の物語だった。

 物語の中では、巨人は主人公を捕まえようとする悪役だったが、男は物語に登場する巨人に目を輝かせ、将来自分が住む家の守りを任せたら、きっと優秀な門番になるだろうと確信した。

 目標を達成するために男は巨人を作るには何をすれば良いかを調べたが、巨人を作るための方法はどこにもなく、男は途方に暮れそうになったが、その内にあるアイデアを思いついた。

 そのアイデアというのは、人間に対して様々な栄養剤を投与したり筋力トレーニングなどによる肉体改造を行う事で擬似的に巨人のような存在を作りあげるという物だった。

 男はそのアイデアを実行に移すために人間の体を成長させるための方法や巨人に変化させる人間を自分の思い通りにするための方法を探し始め、それらを調べながら情報をまとめていった。

 それから十数年が経った頃、男は学生時代に知り合った異性と結婚し、その女性との間に一人の男児をもうけたが、男は自分の計画を実行に移すために女性を交通事故に見せかけて殺害した。

 その後、男はまだ幼い息子に日々の食事とは別にあらゆるサプリメントを与えたり筋力トレーニングを強制したりしながら母親が死んだ理由を息子のせいだと思い込ませ、自分の言う事を聞いていれば誰も不幸にしないまともな人間になれると言い聞かせ続けた。

 男のその歪んだ考えは息子を生きた操り人形のような物へと変えると、息子は徐々に年齢には似つかわしくないような体格へと成長し、男以外の相手とは殆ど何も会話しなかった事から、近所の住人や同い年の子供達からは不気味がられるようになっていた。

 その息子の様子に通っている学校の教師は家庭環境に問題があると考えると男を学校へ呼び出し、家庭での教育の方法などについて聞き取りをした。

 しかし、男はマインドコントロールをしている以外はこれといっておかしな事をしていなかったため、教師は男が行っている狂気的な教育の正体を突き止められなかったが、男がどうにもおかしいと考えると、何も連絡をせずに男の家を訪ねる事にした。

 後日、男の家を訪れた教師がインターフォンを押すと、玄関のドアがゆっくりと開き、そこには不気味な笑みを浮かべる息子の姿があった。

 教師はその笑みにゾッとしたが、どうにか微笑むと、息子に対して挨拶をしてから訪ねた理由を話した。すると、息子は笑みを浮かべたまま教師に近づき、その首を右手で強く掴むと、教師が苦しそうな表情を浮かべているのを嬉しそうに見ながら躊躇いもせずに教師の首を絞め続けた。

 教師は命の危険を感じ、どうにか逃げだすために息子の腕に爪をたてたり途切れ途切れになりながらも止めるように言ったが、息子はそれには反応を示さず、そのまま首を絞められて教師が殺害されると、男は嬉しそうに家の中から出てくると、教師の遺体を引きずりながら家の中へと消えていった。

 その数日後、教師が家を訪れる前に通報をしていた警察の手によって男が逮捕されると同時に息子は保護されたが、その後に報道されたニュースの内容に人々は恐怖し、男の死刑を求める署名活動が各地で行われた。

 そして、その署名活動の結果、男は死刑判決を受けたが、その息子も施設での保護中に職員に対して暴行を行い、その後に送られた少年院でも暴れだし、それを止めるために放たれた威嚇射撃が誤って心臓を撃ち抜いた事で命を落としたという。

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