32冊目 騎士と姫の物語

 あるところに騎士を志す男がいた。

 男が騎士を志すきっかけになったのは幼い頃に偶然出会ったある少女だった。城下町に住む普通の少年だった男にとってその少女は同じく城下町に住む少女達とは違って輝いているように見え、偶然出会ったところに城下町の案内を頼まれただけではあったが、まるで自分がその少女の身を守る騎士になったような気分になっていた。

 その日以降、その少女と会う機会は無かったが、男はまたその少女と出会えた時には今度こそ本当の騎士として少女の傍に立ち、その日に見た少女の可憐な笑顔を見たいと思い、日々腕力や頭脳を鍛え続けた。

 そして、成長した男は騎士団の門を叩き、入団のためのテストを難なくクリアし、夢にまで見た騎士となった。

 その後、入団テストをトップの成績をクリアしていた功績を讃えられた男は王に謁見する事になり、騎士団長と副騎士団長に伴われて謁見すると、その場で王から姫の近衛騎士このえきしになるよう命じられた。

 男はその命を受けてすぐに姫の部屋へと向かったが、そこには世を儚んだような表情を浮かべる姫の姿があり、男が近衛騎士となった事を告げても姫は心ここにあらずといった様子で答えた。

 その様子に男は自分が近衛騎士としてやっていけるか不安になったが、その不安を頭の中から追い払い、その翌日から常に姫の傍に立ちながら姫の憂鬱そうな気分をどうにか変えるために公務の合間に様々な話をした。

 姫は男の話をどこか面倒くさそうに聞いており、その態度に挫けそうにもなったが、根気強く話を振り続けた。

 そしてある時、男が騎士を志すきっかけとなった少女との出会いを話した時、姫は初めて驚いたように男の顔を見始めた。

 その様子に男はしめたと思いながら話を続け、話の結びとしてまた少女に会いたいという気持ちを口にした後、姫に勉強の復習を促したが、姫はこれまでの曇りきった目とは打ってかわってとても輝いた目をしながら何かを思いついたような表情を浮かべていた。

 それから数日後、男は再び王から呼び出され、今度は一人で王に謁見したが、王がやれやれといった顔をしているのに対して姫は幼い頃に出会った少女を思わせる程の明るい顔をしていたため、男はその疑問を口にした。

 すると、王の口からは男にとってとても驚くべき話が語られた。男が幼い頃に出会った少女は城での生活に窮屈さを感じて一人で外へと出てきた幼い頃の姫であり、姫は男との城下町探索を楽しんで帰ってきた。

 しかし、姫の身を案じた王の命令によってその日から姫は城から出る事を禁じられた上に監視もつけられた事で、姫は徐々に持ち前の明るさを無くしていき、男が近衛騎士となった頃には何も楽しむ事が出来ない程になっていたが、男の話を聞いて近衛騎士となったのが幼い頃に出会った少年であった事を知り、姫は以前の明るさを取り戻すと同時に幼い頃に男に対して微かに抱いていた恋心が再燃し、男を自分の結婚相手にしたいと王に直談判をしたのだった。

 話を聞き終え、男が信じられないといった様子で姫を見る中、王は平民ではあるが優秀な騎士でもある男が姫の結婚相手になり、国を今以上に栄えさせてくれるならその結婚を認めると言い、男に姫への気持ちと王となる覚悟はあるかと問いかけた。

 男はあまりに突然の出来事に頭が混乱していたが、自身も幼い頃に少女に対して微かな恋心を抱いていた事を再確認し、気持ちを落ち着けた後、姫との結婚とこの国の王になるための決意を口にした。

 それから数年後、王の座を受け継いだ男は様々な公務に励みながらも愛する家族ともしっかりふれあい、それと同時に国民達が生活をしやすくようになって欲しいという願いをこめながら様々な政策を打ち出した。

 そしてそれから長い時が過ぎた頃、既に王の座を退いていた男は寿命によって天国へ旅立ったが、その国の住民達は男の事を国の歴史の中で最高の王だと評価すると同時に、まるで物語の中の出来事のような男と姫の出会いと再会は今でも国民達の中で語り継がれているという。

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