29冊目 ウサギの縁結び
あるところにウサギを飼っている男がいた。
男が幼い頃から家ではウサギが飼われていたため、男はウサギを自分の兄弟のように感じており、食事や毛並みの手入れなどの世話を積極的に行っていた。
ウサギも自分の世話をしてくれている男には懐いており、ケージが置かれているリビングに男が来た際にはケージの入り口へすぐさま近寄ったり男が自分を撫でている時には気持ち良さそうに目を細めたりする程で、その仲睦まじい様子には男の両親も微笑ましそうな視線を向けていた。
そんなある日、男が携帯電話に保存していたウサギの画像を学校の廊下で見ていると、一人の女子生徒がそこへ近づき、表示されていた画像を指差しながら男に話しかけた。
その女子生徒は男の学年の女子生徒の中ではトップクラスの人気を誇っており、その噂を男も聞いていたが、女子からの人気があまりない自分には関係がないと考えていた。
そんな女子生徒から声をかけられた事で、男は軽く緊張したものの、家族であるウサギについて答えると、女子生徒はその話を楽しそうに聞き、ウサギを実際に見せてほしいから放課後に家までついていっても良いかと聞いた。
その頼みに男は驚くと同時に緊張した様子を見せたが、ウサギに興味を示された事自体は嬉しかったため、その頼みを了承し、その場はそれで別れた。
そして放課後、隣を歩きながら楽しそうにウサギについて訊いてくる女子生徒の話に男は緊張しながらも相づちを打ち、そのまま自宅へ帰宅すると、二人揃って家の中へと入った。
その後、ウサギのケージがあるリビングへ向かい、ウサギが男の姿に嬉しそうな様子を見せる中、男がケージの入り口を開けたその瞬間、ウサギは勢いよく入り口から飛び出した。
すると、その衝撃で男が尻餅をつくと同時に後ろにいた女子生徒もバランスを崩すと、二人の顔はゆっくりと近づき、そのまま唇が重なりあった。
その瞬間、自分の唇に感じる柔らかい感触に男は赤面し、すぐさま顔を離してから同じく赤面する女子生徒に対して慌てながら謝罪をしたが、女子生徒はそれに対して怒る様子はなく、男の謝罪を手で制すると、事故という形であったものの男と口づけを交わせた事を喜んでいると告げた。
その言葉に男が疑問を抱いていると、女子生徒は過去に男に助けられた事がきっかけで男に対して恋心を抱いていた事を告白し、ウサギの事について男に訊いたのもウサギを口実にすればあまり緊張しないだろうと考えたからだと話し、男さえよければ自分と付き合ってもらえないかと頬を軽く染めながら訊いた。
男は突然の告白に戸惑ったが、その告白自体はとても嬉しい物であり、兄弟のような存在であるウサギがもたらしてくれたチャンスを逃すのは良くないと考え、女子生徒からの告白を了承し、二人は恋人同士になった。
その後、更に関係を深め結婚した二人はたくさんの子宝にも恵まれ、相談して始めた捨てられたウサギや飼い主が諸事情で飼えなくなったウサギの里親仲介業にも精を出しながら天寿を全うするまでウサギを愛しながら生き続けたという。
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