27冊目 絆の象徴

 あるところに魔物と共に暮らす女がいた。

 女は幼い頃に実の両親に森の中に捨てられ、そのままでは命を落としてしまうところを森に住む魔物に見つかり、拾われた事で魔物達と共に生活をする事となった。

 女は小さい頃から様々な魔物達を見てきたため、魔物に対しての嫌悪感や恐怖心などはなく、それどころか同じ人間達が住む街へ行く事を嫌い、魔物達との森での生活を好むようになっていた。

 魔物達はそんな女の考えを当初は良くないものだと考えていたが、自分達も女との生活は楽しいと感じていた上に嫌がる女に対して無理やり人間との生活を強いるつもりもなかった。

 そのため、魔物達は同い年の人間の子供達が受けるような教育を女にも行うと同時に、一般的なマナーなども教え、いつか女が人間達の元に戻る事になっても良いように少しずつ準備を行った。

 そんなある日、女が森の中で薬草やキノコを採っていると、そこに二人の人物が現れた。その人物は高級そうな衣服を纏った整った顔立ちの貴族の男性とその従者の男性であり、女が男性達に対して警戒心を抱く中、貴族の男性は女の姿に見惚れると、地面に膝をつきながら女に求婚した。

 しかし、女はその求婚を断ると、森から出ていくように言い、魔物達の住む集落へと帰った。そして、男性達と遭遇した事を話すと、魔物達はそれに対して非常に驚いたが、それと同時にこれは女を人間の中へ戻す良い機会なのではないかと感じていた。

 その夜、魔物達は女が眠ったのを確認すると、森の奥に集まり、女が貴族の男性達と遭遇した事などについて話し合いを行い、その中で女を人間の中へ戻すべきかについても話し合った。

 その結果、全員が女と離れたくないと言い出し、この件については各自で少し考えてからまた話し合う事にすると、その日の話し合いはそこで終了にした。

 だが翌日、女が中々起きてこない事に疑問を抱いた魔物達が女の部屋に行くと、そこには女の姿はなく、一枚の置き手紙だけが残されていた。

 手紙には、魔物達が安全に暮らすために自分の身を犠牲にして貴族の男性に嫁ぐ事に決めた事や相談せずに決めた事への謝罪、そしてここまで育ててくれた事への感謝の言葉が綴られており、魔物達は突然訪れた女との別れに揃って涙を流した。

 しかし、女を取り戻しに行く事で女の気持ちを無駄にはしたくないと全員が考えた事で、魔物達は心にポッカリと穴が空いたような寂しさを感じながらもこれまで通りの生活を続ける事に決め、女の幸せを願いながら森の奥で生活を続けた。

 それから数年後、魔物達の集落に幼い子供の手を引いた女が訪れると、魔物達は驚きながらも女との再会に歓喜し、女が自分達を訪ねてきた理由を尋ねた。

 すると、女は夫である貴族の男性の力を使い、この国に住む魔物達を理由も無しに討伐する事を禁じ、魔物達が人間達の住む街を訪れた際には他の人間と同じように歓迎する法律を作った事、時にはこうして自分から魔物達に会いに来る事にした事をにこりと笑いながら話した。

 それに対して魔物達はとても喜び、その日は女やその子供との一時を楽しみ、魔物達の集落は久しぶりに活気に満ち溢れる事になった。

 その後、女や当時の魔物達が亡くなっても女の働きかけで作られた法律が無くなる事はなく、女は魔物と人間の絆の象徴としてその名前をいつまでも語り継がれたという。

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