21冊目 雨の遺した物
あるところに雨が好きな女がいた。
女は幼い頃から雨を好んでおり、雨が降る様子を眺めたり傘に雨粒が当たる音を聞いたりした際には楽しそうに笑い、雨が降らない日には朝からどこか不機嫌そうな様子を見せていた。
そんな女の様子を家族は変わっていると感じていたが、それ以外は特に変わったところはなく、雨を待ち望む様子が微笑ましかった事から、きっと前世はカエルかカタツムリだったのだろうと笑いながら娘の様子を見守っていた。
そんなある日、女は突然姿を消した。置き手紙もなく、財布なども部屋に置きっぱなしだった事から、家族はフラッと散歩にでも行ったのだろうと考えたが、女は夜になっても帰ってこず、家族は流石に心配になり、警察に通報をした後、娘が行きそうな場所を探し始めた。
そして、捜索開始から数週間後、女は遺体となって発見された。その後の捜査で、姿を消した日に自身が通っている学校の教師と歩いているところを目撃されており、女の家族と警察は教師を怪しんだが、教師が女の命を奪ったと断言出来るだけの証拠は中々見つからず、警察は日々歯痒さを感じていた。
そんなある日の事、朝からしとしとと雨が降り、どこかじめじめとしていた日に件の教師が犯行の証拠を手に警察へと自首した。
自首をした教師はどこか怯えた様子で度々背後を振り返っており、警察はその事を不思議に思いながらも教師を逮捕し、教師の取調べを開始した。
そして同時刻、女の家族が哀しみにくれながら生活をしていると、突然玄関のチャイムが鳴らされ、誰かと思いながらドアを開けたが、そこには誰もおらず、生前女が好きだった
女の家族は紫陽花が置かれていた事を不思議に思いながらもそれを拾いあげていると、目の前には生前と同じようにお気に入りの傘を差しながら立つ女の姿があった。
それに対して家族が嬉し涙を流していると、女はにこりと笑ってから、自分は命を落としたけれどこれからは好きなだけ天国で雨を楽しむから自分がいなくとも家族には仲良く笑って過ごしてほしいと言い、そのまま静かに姿を消した。
その後、女の家族は女の願い通りに喧嘩などをせずに生前の女と同じように雨を眺めたり置かれていた紫陽花やその中に入り込んでいたカエルを娘の生まれ変わりかもしれないと考えて世話をしたりしながら日々を過ごし、天寿をまっとうして亡くなった日まで仲睦まじい夫婦として幸せに暮らしたという。
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