20冊目 作品となった男

 あるところに世間からの評価の低い作家の男がいた。

 男は学生の頃から作品を書いており、部活動も文芸部に所属していたが、その頃から作品の出来映えはあまり評価されておらず、Web小説という形でも作品を世間に発表していたが、その評価は決して高い物ではなかった。

 それでも、男は作品を作る事を止めず、いつか誰かから評価されると信じて、様々な作品を書き続けた。

 そんなある日、男はある女性と知り合った。その女性は男が作品を投稿しているサイトの閲覧者であり、男の作品を高く評価する数少ない相手だった。男は女性の口から出る作品や男自身への賛辞に喜びを感じ、幾度か共に出掛ける内に女性に対して仄かな恋心を抱くようになっていた。

 そして、二人が出会ってから半年が経った頃、女性は近くに作品のネタになりそうな廃墟があると言い、そこへ一緒に行ってみないかと男に提案した。男はその提案に対して少し迷った様子だったが、恋心を抱いている相手からの提案だったため、それを了承し、二人は件の廃墟へと向かった。

 そして、廃墟へ着いてみると、そこは一件の屋敷であり、庭には雑草が生い茂り、はめられている窓ガラスも多くが割れていた。男は廃墟の不気味さに気圧されたものの、すぐに気持ちを落ち着けると、女性と共に中へと入っていった。

 外からの光が入ってきていたものの、中は薄暗く、独特の雰囲気も相まって男は表面上は気丈に振る舞っていたが、内心ビクビクとしており、早く廃墟から抜け出したいという気持ちでいっぱいだった。

 そして、廃墟内の探索も半分が終わった頃、男の恐怖心は限界まで達しており、最後に一部屋確認したら帰ろうと女性に言い、目の前の部屋へと入った。

 すると、中には男が想像していなかった物が並んでおり、男は情けない悲鳴を上げていると、突然背後からバチリという音が聞こえると同時に体の痺れを感じ、男が力無く倒れこんだ。

 女性はスタンガンを手にしながらその姿を見下ろし、嬉しそうな笑みを浮かべると、動けない男に対して静かに話を始めた。

 女性は男のファンであるのは間違いなく、男の影響を受けて、作品を書き始めようと考えた。しかし、女性が書こうとしていたのは、一人の男性を監禁し、自分の思い通りに飼育しようとする女性の話であった。

 そして書き始めたものの、上手く書く事が出来ず、結果として実際に行った事を作品として書くという事を思い付き、飼育していて一番愛情を注げるであろう男を廃墟へと誘ったのだった。

 男は女性の話に恐怖し、どうにか逃げようと試みたが、スタンガンで痺れた体ではうまく動けず、女性は自身の飼育計画を嬉しそうに話しながら部屋のドアを静かに閉めた。

 それから長い年月が経ち、あるWeb小説が原作の作品の視聴をきっかけに廃墟探索に興味を持った一人の男性が肝試しでその廃墟を訪れた。

 そして、ある一室に入った瞬間、男性は部屋の様子に顔をしかめた。部屋の中には、誰かを捕らえておくための手錠や汚物まみれになった桶、風化してぼろぼろになった人骨などがあり、人骨のそばの床には黒ずんだ文字で『タスケテ』と書かれていたという。

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