17冊目 永遠の偶像

 あるところにアイドルを志した女がいた。

 女は特別周囲の目を惹くような容姿でもなく、歌唱力なども突出しているわけではなかった。しかし、女は幼い頃に観たテレビに出演していたアイドルの姿に憧れを抱いていたため、日々ボイストレーニングや走り込みなどを頑張り、その姿に両親も娘が夢を叶えられるように祈りながら自分達が出来る限りのサポートをした。

 そして、成長して高校生となった女は、とある芸能事務所が新人アイドルを募集しているという情報を手に入れると、すぐさまそこへ履歴書を送った。

 すると、女はどうにかオーディションへと進む事が出来、もしかしたら夢を叶えられるかもしれないという淡い期待を抱きながら当日その事務所を訪れた。

 しかし、結果として女はオーディションに合格する事は出来なかった。歌やダンス、面接での受け答えは問題なかったが、誰かの目を惹くわけではない容姿が事務所の社長達にマイナスにとらえられた事で、後日女の家には不合格の通知が届いた。

 その事に女は深く悲しんだ。どれ程努力をしても、見た目が良くなければ夢を叶えられないのかと嘆き、しばらくの間、女は塞ぎ込んでしまった。

 そんな娘の悲しむ姿に両親は心を痛めたが、まだアイドルになる方法はあるはずだと考えると、様々な手段を用いてその方法を探った。

 すると、とある事務所の存在を知り、その詳細からもしかしたらここならばと考え、塞ぎ込む娘にその事務所の存在と詳細を伝えた。その事務所というのは、アイドル以外にも俳優や芸人なども所属している場所で、主に老人ホームや刑務所の慰問を行っている一風変わった事務所だった。

 女は両親からその事務所について教えられてもあまり乗り気ではない様子だったが、両親の気遣いや努力を無駄にはしたくないと思い、再び履歴書を送ってみると、後日事務所からオーディションに来てほしいという連絡を受けた。

 女はその連絡に喜んだが、前回応募した事務所の社長達の言葉がふと頭をよぎり、また同じような事を言われるかもしれないといった不安が募った。

 しかし、女はどうにかその不安を振りきると、事務所へ向かい、今回もダメであれば夢を諦める程の覚悟をもってオーディションに臨んだ。

 そして、面接での受け答えや社長達を前にした状態でのパフォーマンスを終え、緊張しながら自分への評価を待っていると、社長達は微笑みながらオーディションでの女の様子を褒め称え、是非とも自分達の事務所に所属してほしいと告げた。

 その事に女は驚きを隠せない様子だったが、やがて安心感と自分の努力が報われた喜びからポロポロと涙を溢し、少し時間を置いて気持ちを落ち着けた後、自分からも事務所への所属を望み、女は見事アイドルになるという夢を叶えた。

 その後、女は事務所に所属する他のアイドル達と共にレッスンなどに励みながら様々な場所へ赴いてライブを行い、時には事務所に所属する俳優と共に演劇を披露したり芸人のライブに出演したりするなど様々な事に挑戦した。

 その一般的なアイドルにはあまり見られない姿に慰問先の人々は初めこそ物珍しそうな視線を向けたり驚いたりしたが、慰問を続ける内に女の来訪を心から喜ぶようになり、女自身もそれを自分のモチベーションにしながらアイドルとして頑張り続けた。

 そして、女は結婚や出産をした後も活動を続け、天寿をまっとうする形でこの世を去ったが、老いても活動を続けた女の姿は慰問先や事務所の人々の心に深く刻まれ、今でも『永遠の偶像』という名前で話題に上がるのだという。

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