15冊目 物々交換
あるところにわらしべ長者に憧れた男がいた。
男は前職を辞めてから次の職には中々就かず、両親が呆れるのも気にせず、毎日を好きなように過ごしていた。
そんなある日、男は母親に言われ、物置小屋の掃除をしていた。物置小屋には使わなくなった家具や壊れた家電などが雑多に置かれており、男は気だるそうにため息をついた後、物置小屋の中の物を種類毎に分けながら掃除を始めた。
そして開始から数時間後の昼、そろそろ昼飯時だろうと男が思い始めたその時、男は段ボール箱の中から一冊の本が飛び出してるのが見え、それに興味をそそられた様子で手に取ると、『わらしべ長者』というタイトルが目に入ってきた。
男は懐かしそうに本を眺め、何の気なしにパラパラッとページを捲っていたが、程なくして本を勢いよく閉じると、物置小屋から飛び出し、自室へと戻った。
そして、自室にあった学生時代に使っていた辞書を一冊手に掴むと、居間で
あまりに突然の事だったため両親は面食らったが、男に質問の意図を尋ねた。すると、男は『わらしべ長者』の本を見つけた事を話し、本の主人公のように物々交換を続ければ、きっと最後には良い物を手に入れられるはずだと語った。
両親は男の考えに苦笑し、きっと途中で諦めるだろうと考えた。しかし、どんな事であれ息子がやる気を出したのは良い事だという考えに至り、両親は台所から一升瓶に入った日本酒を辞書と交換した。
男は交換が成功した事に喜び、両親にお礼をのべた後、次の物々交換を行うために行動を開始した。その最中、男の行動を嘲笑ったり自分にとって有利な取引を持ちかけようとしたりする人物とも出会ったが、男はそれでも諦めず、根気強く物々交換をし続けた。
そして物々交換を始めてから一月が経った頃、物々交換をし続ける男の姿を面白がった人物がその事をネットに書き込むと、それを聞き付けたテレビ局のスタッフが男の元を訪れ、物々交換の様子に密着した番組を放送した。
すると、男の事は瞬く間に有名になり、自分も物々交換をしたいという者も現れた。
しかし、その頃には男もそろそろ物々交換は終わりにしたいと考えていたため、それを断ったが、男はその際にとある事を思い付くと、密着番組を撮った時に知り合ったスタッフに連絡を取り、物々交換の最後を番組にして放送したいと話した。
そして、その話を面白がったスタッフ達によって、男の提案した番組は放送され、そのスタッフとの物々交換を最後に男のわらしべ長者生活は幕を閉じた。
その後、物々交換を行っていた間の出来事や交換してきた物品を綴った本を出版した男は、その印税によって多くの金を手に入れ、わらしべ長者生活中に出会った妻やその間に生まれた子供達と共に幸せな余生を過ごしたが、男はわらしべ長者生活で得た一番の物はという質問に対して人との繋がりとあたたかさと答えていたという。
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