12冊目 竜への憧れ

 あるところにドラゴンになる事を夢見た女がいた。

 そのきっかけは、小さい頃に両親に読み聞かされた勇者の物語だった。その中で、竜は魔王の手先となっている個体の他に勇者の相棒として活躍している個体もおり、女はそんな竜の勇敢さや美しさに憧れを抱き、将来は竜になりたいと思うようになった。

 しかし、その夢を聞いた者は、誰もが冗談だと思ったり馬鹿な奴だと嘲笑あざわらったりし、その事に女は酷くショックを受けたが、それでもへこたれる事なく、女は竜になる方法について考え、様々な文献を読み込んだ。

 その結果、捕食や注入によって他種族の細胞を取り込み、自身の細胞をその種族の物へ変質化させる術の存在を知り、女は飛び上がる程に喜んだ。しかし、その術の使用には竜の細胞が必要であり、女は今度は細胞の調達法について悩む事になった。

 そして、それから数年が経ったある日、女の住む街を飛竜の群れが襲った。飛竜達の襲来は住民達の恐怖を煽り、腕に覚えのある者が応戦する中、街には逃げ惑う者達の悲鳴や怒号が響き渡った。

 そんな中、女が家族と共に逃げていたその時、女は路地の陰に何かがあるのを見かけ、家族の制止を振り切ってそれに近づいた。

 すると、それは飛竜の死体であり、女はそれを見つけた事をまたとないチャンスだと考えた。そして、持っていたナイフで肉の柔らかい部分を切り取ると、迷う事なくそれを飲み込み、変質化の術を使用した。

 すると、女は体が熱くなるのを感じると同時に、これまでに経験した事が無いような痛みに苦しみ、道でのたうちまわりながら苦しそうな声を上げた。しかし、女はこの行動に後悔はしておらず、むしろ小さい頃からの夢に近づける事に歓喜していた。

 そして数分後、女の体には次々と変化が生じていた。背中からは大きな翼が生え、腕や足は銀色の鱗で覆われると、爪は刃物のように鋭く尖り始め、さらに数分後、女は人の身でありながら竜の要素を持つ亜人となった。

 女は完全に竜になっていない自身の姿に少し不満気だったが、体の奥から沸き上がる力に気持ちが高揚するのを感じた後、翼をはためかせ飛竜の群れへと飛び込んだ。

 その後、女は術を見つけるまでに身につけた魔法や手に入れた爪などを活かして戦い、飛竜の群れを退けたが、戦闘で受けた傷はあまりにも深く、女の功績を住民達が讃える中で静かに倒れ、そのまま息を引き取った。

 女の死に家族を含めた住民達は哀しみ、その勇敢さと戦闘を行う姿の美しさを後世まで伝えるために街の中心に女の石像と功績などを刻んだ石碑を建てたという。

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