11冊目 演技
あるところに世界的に有名な俳優になろうとした男がいた。
男は小さい頃に両親に連れられてとある劇場へと足を運んだ。そして、そこで観た舞台に心を奪われ、自分も将来は俳優となって多くの作品に出たいと思うようになっていた。
小さいながらも男は俳優になるまでの道のりは険しく、なった後も楽しい事ばかりではない事は知っていた。しかし、男はそれでも俳優になる夢は捨てず、学校の授業と並行して演技力や語彙力などをゆっくりと磨いていった。
その結果、男は所属した演劇部で名優として賞されるようになり、誰もが将来は著名な俳優になるだろうと言った。
しかし、男は自分の演技には納得しておらず、まだまだ登場人物の気持ちに近づけていないと自分の演技をそう評価し、どうすれば登場人物の気持ちに近づけるかについて思考を巡らせた。
そんなある日、男はあらゆる声色を操る事が出来れば、登場人物の気持ちにもっと近づけ、観客達を更に沸かせる事が出来ると考え、それを実行するために様々な努力を重ねた。
すると、男は老若男女あらゆる人物の声を使い分けられるようになり、演じられる役の幅が広がった事から、男を称賛する声は更に多くなった。
その後、成長した男は端役ではあったが、遂に俳優としての一歩を踏み出し、その出演がきっかけとなり、あらゆる作品でその姿を見るようになった。
そして、テレビや雑誌でも徐々に取り上げられるようになり、街を歩けばファンにも声をかけられ、周囲からは
しかし、男自身はこの生活に嫌気がさしていた。というのも、テレビ番組への出演時やファンとの遭遇時にはいつも自分が過去に演じた役をここで軽くやってみて欲しいと言われるようになっており、その事が男にとって大きなストレスになっていたからだった。
自身の演技の向上や演技を観た人々を沸かせるための技術が自身を苦しめ、本来の自分よりも周囲から求められている事実に、男は一人苦悩した。
そしてある時、男は一つの結論を出すと、とある物を購入し、それをドラマの撮影現場に持ち込むと、人目を盗んでそれを飲み込んだ。
その瞬間、体は拒否反応を示し、どうにか吐き出そうとするかのように男の口からは咳が出たが、それを男は笑って誤魔化すと、そのままドラマの撮影に臨んだ。
その後、ドラマの撮影は滞りなく進み、男の演じる登場人物が病で亡くなるシーンに入ったその時、事前に飲み込んだ物の影響で男は咳き込み、その意識は
そして、登場人物が亡くなる直前で男の意識も途切れ、そのまま男は事切れたが、他の出演者達やスタッフはそれには気づかずにシーンを撮り終わった瞬間にまるで本当に死んでいるようだと称賛し、男の死体に割れんばかりの拍手を送った。
しかし、その音でも男は目を覚まさず、その様子に疑問を抱いたスタッフが男に触れた瞬間、その体の冷たさに短く悲鳴を上げ、ようやく異変に気づいた出演者達やスタッフ達は男へと近づき、撮影現場には悲鳴や怒号が響き渡った。
それから数日後、テレビなどでは男の服毒自殺の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます