10冊目 見えない友人

 あるところに見えない友人を持つ女がいた。

 その友人は女が物心がついた頃からおり、女は初めこそ少し怖がったものの、すぐにその事に慣れると、何気ない雑談をする程の仲になっていった。

 両親はその見えない友人の存在を気のせいや何かのお遊びのような物だと考え、娘の言葉を信じなかったが、徐々に娘の言葉に真実味を感じ始めると、その存在が娘にとって害になる物ではないかと疑い始めた。

 しかし、仕事で忙しい自分達がいない時でも娘が楽しく過ごせている事やその存在を除く事で娘が悲しむ事を考えた結果、ひとまず様子見に徹し、危険が及ぶようであれば何かしらの手を打つという事にした。

 それから数年後、女は成長し高校生になったが、見えない友人は未だに傍にいた。しかし、その頃になると、女は見えない友人との会話は周囲からは異質な物に見える事を理解していたため、自分達以外には誰もいない時に話したり筆談や首を振る事で肯定と否定を示したりする事で見えない友人との交流を続けていた。

 そんなある日、部活動で遅くなった女が夜道を歩いてると、背後から自分の物ではない足音が聞こえてくるのに気づき、女は一度止まったり進む速さを変えたりする事で足音の主の様子を伺った。

 すると、足音の主が取った行動は女の行動とまったく同じであり、女は足音の主がストーカーであると考え、その恐怖に青ざめながらも背後から迫るストーカーを下手に刺激しないように気づいていないフリを続けた。

 そして、自宅まで後少しというところに迫った瞬間、ストーカーの足音は明らかに大きくなり、女はストーカーがこちらに向かって走ってきているという恐怖で足がすくみ、その場から動けなくなってしまうと、そのまま静かに目を閉じた。

 しかし、いくら待ってもストーカーが襲ってくる様子がなく、女は目を開けながらゆっくり背後を振り返った。

 すると、そこには苦しそうに自分の首を絞めているストーカーの姿と体が透けている着物姿の少女の姿があり、その光景に女が驚いていると、着物姿の少女は振り向き、優しい笑みを浮かべた。

 そして、ストーカーの方を再び向くと、ストーカーは恐怖に満ちた様子で両手と膝を地面につきながら息を荒くしており、程なくしてストーカーが情けない悲鳴を上げながら去っていくと、着物姿の少女の姿も消え、一人残された女は何がなんだかわからない様子でポツンと立ち尽くした。

 その後、女がこの事を両親に話すと、両親は驚いたが、女が見えない友人の話を始めたのと同時期に近くの家で高校生の少女が亡くなった話を聞いた事を思い出し、きっと見えない友人はその少女で幼少期の女に興味を抱いてずっと傍にいてくれたのだろうと話した。

 その両親の話に女はそれが本当かを見えない友人に問いかけたが、見えない友人はそれには答えなかった。しかし、女は嬉しそうに微笑むと、見えない友人に対してお礼を述べた。

 その後、女は天寿を全うするまでずっと見えない友人と共に過ごし、女の葬式の日に列席者の中から敷地内で若き日の女と着物姿の少女が手を繋ぎながら歩いている姿を見た者が何人も出たという。

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