9冊目 心霊写真

 あるところに心霊写真を撮る事に興味を持った男がいた。

 その発端は何の気なしに観ていたテレビ番組だった。その番組では視聴者から送られてきた怪談や実体験を再現したドラマやネットで有名な都市伝説について調査した映像などを流しており、その中にあったのが視聴者から送られてきた心霊写真を紹介するコーナーだった。

 一緒に見ていた家族は紹介される心霊写真を軽く笑いながら観ているだけだったが、男はそんな物を撮った経験が無かったために羨ましさを感じており、自分もいつか心霊写真を撮りたいと思うようになった。

 しかし、男の家の近所には曰く付きの場所などはなく、夜の神社ならばと思い、写真を撮って帰るもそこに幽霊などの姿はなく、男は落胆すると同時に心霊写真を撮れない事に苦悩した。

 そうして悩み続ける事数週間、男はとあるアイデアを思いつくと、その計画を実行するための準備を始めた。

 学校のある平日には携帯電話を使って自分の計画に見合う場所や道具を探し、休日には調べた場所を実際に訪れ、内部をくまなく探索してその情報を記録するなど精力的に調査と準備を行った。

 そして、それから一月が経った頃、自分の計画にピッタリな場所を見つけた男は、学校で特に仲の良い友人に声をかけ、週末にそこへ行き、心霊写真を撮ってきてくれるように頼んだ。

 男が心霊写真を撮る事に躍起になっている事を知っていた友人はその話を少し不思議がると同時にあまり気乗りしない様子を見せたが、男が必死に頼み込んだ事で渋々了承した。

 そして当日、友人は指定された場所に到着した。そこは住人がいなくなってから数年が経っているような廃屋で、その独特の雰囲気に友人は少し気圧されたが、自分を鼓舞する事で恐怖に耐え、縁側からゆっくりと廃屋の中へ入っていった。

 和室や台所、風呂場や居間など様々な場所を歩いている内にうっすらと感じる冷気と雰囲気に初めこそ総毛立ったが、その内友人はそれすらも楽しめるようになっており、まるでテーマパークのホラーハウスを楽しむかのように写真を撮っていった。

 探索開始から十数分後、一通り廻ったと感じた友人は一度和室に戻り、ここまでに撮った写真を確認し始めた。すると、撮った写真すべてに高校生くらいの学生服姿の少年がぼんやりと写っており、友人は心霊写真を撮れた事に興奮したが、やがてとある事に気づいた。

 それは撮れた写真に写る少年の幽霊がどこかここに来る事を頼んできた男の顔にそっくりな事であり、心霊写真を見直す内に友人の顔には恐怖の色が浮かび、心臓の鼓動は息苦しさを覚える程に速くなっていた。

 友人はその事を気のせいだと考え、早々に廃屋を立ち去ろうとしたが、和室で撮った写真の中に少年の幽霊が押し入れの前に立っている物があった事を思い出し、ゆっくりと押し入れの方へ顔を向けた後、自分の考えが間違いである事を証明するために押し入れへと近づいた。

 そして、更に心臓の鼓動が速くなるのを感じながら押し入れを静かに開けた。そして、押し入れが完全に開ききった後、壁や床に飛び散っている乾いた血の跡とかつて生者だったモノを目にした瞬間、友人は自分の考えが合っていた事を知り、哀しみと怒りを感じながらその場に膝をついた。

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