8冊目 別次元の想い人
あるところにゲームのキャラクターに恋をした男がいた。
男がそのキャラクターと出会ったのは高校生の頃で、男は周囲から品行方正で文武両道な生徒だと評され、男自身もその評価に違わぬ人物であり続けようとしたが、そんな生活に次第に息苦しさを感じ始めていた。
そんなある日、友人の一人からとあるアプリゲームを勧められ、男は気分転換にでもなればと思い、勧められるままにゲームをスタートした。ゲーム自体はごく一般的なファンタジー物であり、男もそんな感想を抱きながらチュートリアルを進めていった。
しかし、あるキャラクターと出会った瞬間、男はまるで電撃に撃たれたかのような衝撃を受けた。そのキャラクターというのは、ゲーム内のヒロインでもなく仲間キャラでもないが立ち絵が与えられたモブキャラであり、メインキャラ達のように多くのセリフが与えられているわけでは無かったが、男はそのキャラクターに今まで異性に対して感じた事がない感情が沸き起こるのを感じていた。
そして、その日から男は暇さえあればそのキャラクターの事について考え、もし現実にいれば自分はどのようなところに連れていくか一緒にどんな事をしたいかなどまるで本当の恋人との計画について考えているように見え、その変化に友人達は苦笑を浮かべたものの、以前に比べて顔色なども良くなっていた上に成績も下がっている様子も無かったため、話にノリながらも男の変化について静かに見守っていた。
しかし、男の両親はそんな息子の姿をよくは思わず、友人や同僚の娘と会わせたり学校で気になる異性はいないのか訊いたりする事で、息子の関心をゲーム内のキャラクターから現実の異性へと向けようとしたが、男はそんな両親の行動を
すると、両親はそのゲームがあるから悪いのだという判断に至り、息子が携帯電話を部屋に置きっぱなしにしているのを見かけると、ゲームを無断でアンインストールし、これでもう息子も諦めてくれるだろうと安堵した。
しかしその翌日、息子が起きてこない事を不思議に思った母親が男の部屋に行くと、そこにはベッドにもたれながら首に果物ナイフを宛がう男の姿があった。
母親の顔はサーッと青ざめ、どうにか息子を止めようとしたが、男はこれまでの両親の行いについて非難した後、幸せそうな表情で愛するキャラクターの名前と愛の言葉を口にし、果物ナイフをためらう事なく横に引いた。
その瞬間、男の首からは大量の血が吹き出し、男の死体が力なく倒れこむと、家の中には母親の悲鳴が響き渡ったという。
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