6冊目 日本人形
あるところに日本人形をこよなく愛する男がいた。
男は幼い頃に祖父から日本人形をプレゼントされた事がきっかけで日本人形を好きになり、部屋に飾った日本人形に対して『おはよう』や『おやすみなさい』といった挨拶をしたりその日にあった事を報告する程だった。
男にとってその日本人形はただの人形ではなく、れっきとした家族の一人であり、その姿に家族は最初こそ驚きこのままではいけないのではと不安を感じていたが、その生活が続くにつれて見慣れた光景となったのかその光景を見かけてもまたかといった様子で苦笑いを浮かべるようになっていた。
そんなある日、高校生になった男は風邪で学校を休み、熱に浮かされながら頭の痛みと度々出る咳に苦しめられていた。しかし、男は部屋に日本人形がある事で安心感を覚えており、家に一人きりという状況でも寂しさを感じていなかった。
そして、男は両親が朝の内に準備をしていたお粥を食べ、また睡眠を取ろうとした。すると、一階から何やら物音がするのに気づき、男は家に泥棒が入ったのではと考え、様子を見に行くためにどうにか一階まで行こうとした。
しかし、男はベッドから体を起こす事が出来ず、それでもどうにか体を起こそうとした事で余計に疲労すると、男の目はゆっくりと閉じていき、男は悔しさを感じながら静かに眠りについた。
そしてそれから数時間後、体を揺り動かされた事で男は目を覚ますと、目の前には軽く涙を浮かべながら自分を見る両親の顔があり、少し楽になった体を起こしてみると、室内には警察官と思われる人物の姿もあった。
寝起きという事もあり、男は少しボーッとしていたが、眠りにつく前にした物音の事を思い出すと、すぐさま両親にその事について訊ねた。
すると、男が聞いた物音は予想通り泥棒が立てた物であり、泥棒は玄関から侵入した後にしばらく家の中を物色していたようだったが、近隣住民が聞いた悲鳴の後に通報を受けて駆けつけた警察官が見たのは、リビングの隅でうずくまりながら怯える泥棒の姿だったという。
その姿に疑問を感じた警察官が泥棒に対して幾つか質問をしたが、泥棒は泥棒に入った事を謝罪したり何かが向かってくる事を拒絶したりするのみで警察官達もその泥棒の様子には首を傾げていた。
しかし、男は口には出さなかったものの泥棒は日本人形が対処をしてくれたのだと感じ、その事件以降日本人形に対して注ぐ愛情は更に深くなり、天寿を全うするまでその日本人形はずっと手放さなかったという。
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