3冊目 ドッペルゲンガー

 あるところにドッペルゲンガーに悩まされている男がいた。

 事の始まりは一月前、ドッペルゲンガーが野良犬を虐めているところを男の同僚が目撃し、それを男に確認したが、その時には男は自宅で寛いでおり、二人は顔が似ている別人と見間違えたのだろうという結論を出した。

 しかし、その後も男のドッペルゲンガーは出没し、その度に何らかの悪事を働いていた。男はその話を聞く度にため息をつき、ドッペルゲンガーが早くいなくならないかと思っていたが、ある時ドッペルゲンガーの出現場所にある発見をした。

 それは出現場所が男が過去に同じような悪事を働いていた場所で、徐々に自分の家へと近づいてきている事だった。その事実に男は戦慄せんりつしたが、それならばドッペルゲンガーを迎え撃ってやろうと意気込み、出現場所の共通点については隠して同僚にこの事を話した。

 同僚はその事に難色を示していたが、男の決意が固い事を知ると、少し不安そうではあったが送り出す事を決め、自身が知る限りのドッペルゲンガーについての知識を伝えた。

 ドッペルゲンガーとは、自己像幻視とも呼ばれており、本人が実際に会うと、早かれ遅かれ亡くなってしまう事。しかし、会った際には罵倒すれば助かる事などを聞き、男は同僚にお礼を言うと、ドッペルゲンガーの迎撃のためにすぐに有給の申請を行った。

 そしてそれから数週間後、男は傍らに迎撃用の武器を置き、自宅の玄関に座りながらドッペルゲンガーを待ち構えていた。ドッペルゲンガーという怪異に武器が効くかはわからなかったが、牽制けんせいくらいは出来るだろうと男は考え、ドッペルゲンガーが自宅に現れるのをじっと待ち続けた。

 しかし、いくら待ってもドッペルゲンガーが現れる気配はなく、その内に男の口からは大きな欠伸が漏れ、もしかしたら今日はもう来ないかもしれないと感じた男はため息をつきながら立ち上がり、ゆっくりと後ろを振り返った。

 すると、玄関のドアが静かに開き、家の中に男と同じ顔をした人物が入り込んだかと思うと、謎の人物は玄関に置かれている男が用意していた武器の中からナイフを手に取ると、油断しきった男の背中に深く突き刺した。

 その痛みと驚きで男が悲鳴を上げ、ガクッと膝をつくと、謎の人物はナイフで男を何度も突き刺し、男が事切れると、謎の人物は息を荒くしながら男の死体を見下ろすと、自分の顔に手を掛け、ビリビリという音を立てながら破り始めた。

 そして、男の顔のマスクを足元に捨てると、同僚は返り血にまみれながら憎しみを込めた視線を男の死体に向け、これまでの恨みなどを口にすると、いもしないドッペルゲンガーに怯えていた事を嘲笑い始めた。自身の後ろに同じ顔をした謎の人物が立っている事に気づかぬまま。

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