2冊目 お菓子の家
あるところにお菓子の家に住む事を願った女がいた。
発端は幼い頃に読んだ本で、同じ本を読んだ周囲の子供達が主役や悪役の言動について話に花を咲かせる中、彼女の頭の中はお菓子の家でいっぱいになっており、周囲には漏らさなかったものの彼女の将来の夢はお菓子の家に住む事になっていた。
彼女はそのために材料となるお菓子を作る事に熱心になり、その情熱はお菓子作りの腕をみるみる内に上達させると、彼女は若くして世界的に有名なパティシエールになった。
そんな彼女を周囲は讃え、彼女のようなパティシエールになりたいという声も多かったが、彼女の頭の中は今でもお菓子の家に住むという目標が大半を占めており、休日にはお菓子の家を作るにはどうしたら良いかを考える時間になっていた。
そしてある日、遂に彼女はお菓子の家の設計図を作り上げた。ビターやミルクなどの板チョコの屋根にクッキーの壁やドア、飴の窓など様々であり、設計図を見ながら頭の中で完成後を想像し、彼女は悦に入った。
その後、彼女は知り合いのパティシエールやパティシエ達に手伝ってもらいながらネット配信という形でお菓子の家作りを始めた。
材料自体の製作やそれらを接着する作業による疲労感や緊張感は彼女の想像を遥かに超えたが、完成した際の達成感や幼い頃からの願いが遂に叶うという喜びの方が勝り、彼女は精力的に材料の製作や指示に励んだ。
そして、最後のパーツとなる板チョコを屋根の欠けていた部分に嵌め込み、お菓子の家は遂に完成した。彼女らの目の前に現れたお菓子の家は、結果として幼い頃に憧れたお菓子の家とは多少違う形になったが、その出来映えに製作に関わった全員は歓喜の声を上げ、配信を見ていた人々からも次々と賛辞が送られた。
しかし、その中で彼女だけは声を上げずにボーッとお菓子の家を見ていたかと思うと、ふらふらとしながらお菓子の家に近づき、その様子を見ていた誰もが不思議がる中、彼女はクッキーのドアを開けて家の中へと入っていった。
そして、中々彼女が出てこない事に誰もが不安を感じ始めたその時、会場周辺を大きな地震が襲った。地震の揺れに会場にいた全員が警戒をする中、その震動でお菓子の家はグラグラと揺れだし、屋根の板チョコがボロボロと落ち始めたかと思うと、程なくしてお菓子の家は大きな音を立てて崩れ落ちた。
その光景に会場には悲鳴が響き渡り、配信を見ていた人々からも心配や不安の言葉が寄せられたが、すぐさま会場にいた全員がお菓子の家に近づき、お菓子の下敷きになっているパティシエールの救出を始めた。
そして開始から数分後、彼女はようやく見つけ出されたが、彼女の後頭部には固い物がぶつかったような傷があり、そこからの出血によって彼女は既に事切れていた。しかし、彼女の死に顔はとても穏やかで、達成感に満ち溢れていた。
その後、彼女が亡くなったのは、室内に置かれていたひび割れたレンガが原因で、地震でバランスを崩して背中から倒れた先にあったレンガに頭がぶつかり、その傷から出血した事による失血死であると断定された。
しかし、会場にいた全員からの聞き取りである事実が判明した。聞き取りを行った誰もがレンガを会場に持ち込んでいない上、元々その場にレンガは置かれていていなかったのだ。
では、そのレンガはどこから来たのか。ニュース番組やネットではその話題でしばらく持ちきりになったが、その謎を解明出来る者は遂に現れなかったという。
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