カミサマパワー
「シライちゃん、まだ行ける?」
カスミちゃんがシライの頭を撫でる。海面を滑る様に泳ぐシライはふしゅると口先から舌を出して答えた。この蛇、シライは俺とカスミちゃんの仔だ。正確には俺とカスミちゃんの中の蛇の仔だが。
「大丈夫そうね」
「そろそろ陸が見えるはずだぞ」
俺が地図と空とを見比べながら言うとシロが目を細めて一点を見つめる。
「フミさん、見えます。陸です」
シロの目には見えているようだが俺たちの目にはさっぱりだ。だが陸は近いらしい。
「シライがいなかったらこんな海の上で放り出されて……。詰むとこだったな」
クロはシライの背に寝転んで海水を飛ばして遊んでいる様に見える。
「警戒してるんだろうな、クロ」
「もち、周囲に敵性生物無し。あ、コバンザメくんは敵性になる?」
「実害がなければ放っておけばいい」
ラジャ、と敬礼するクロに俺は敬礼を返す。
シロが見えると言ってから数分、ようやく俺たち全員の目に陸が見えた。
断崖絶壁で上がる場所を探すのに苦労したが無事上陸した。ここで俺たち家族がするのは言うのは簡単な仕事。
それは子を産む事。それはニンゲンの始祖になると言う事。
1組の夫婦と1組の双子が2つのニンゲンの始祖となる。
ここから俺とカスミちゃんはシロクロと別行動となる。
涙を浮かべるシロと強がろうとするクロをカスミちゃんと一緒に抱きしめる。
シライも俺たちに付いてくるからここからはシロとクロ、ふたりだけで生きていかなければならない。
俺たちは聖者と聖女とは言えニンゲンに毛が生えただけの存在。
蛇のシライがいると言っても寝込みを襲われたらアウトだ。
その点シロとクロは捨てられたとは言えカミサマだ。俺たちよりアドバンテージがある。
あとは、ふたりが子作りできるかどうかだが。まあここは問題ないだろう。色々知ってるだろう。みせてるし。
両手を振り合い全く反対の方向へ歩き出す。
俺とカスミちゃんは狩猟、漁撈、採集をしながら子を作り、育み、移動を繰り返した。規模が大きくなると自然に分裂する様に情報を操作していくつもの群れを作り上げた。
そして、俺たちから産まれたのではない群れとの戦いが起きるようになった。
抗争が起きるようになったと聞いて討ち取った死体を見た時、俺たちは安堵した。シロとクロは無事に始祖となっていたのだと判ったから。
その安堵が引き金だったのだろうか俺たちは身を寄せていた群れから離れて山の奥に引きこもった。大きすぎて人前に姿を見せづらくなったシライの住む山に。
そして、涙の別れから数千年の時が流れた。
俺とカスミちゃんはシライをご神体とする山社、髪蛇山にある神社の奥の奥の奥に住んでいる。
シロとクロも違う神社の奥で匿われるようにひっそりと暮らしている。
連絡を取り合うのも会うもの簡単だがあまり頻繁すぎると人類の対立が激化するので程々にしている。
そんなある日の事だ。
「フミさん。久しぶりだなあ」
白いヒゲをたくわえたカズマが空間を裂いてひょっこりと現れた。本当に突然の事だった。
「おう。階段登りきれたんだな」
右手を拳にして突き出すと、頑張ったぜとカズマは拳を突き合わせた。
「カスミちゃん。カズマが来たぞ」
俺が奥にそう声をかけるとカズマは驚いた様に目を丸くした。
「何だよ、まだカスミちゃんって呼んでんのか? 名前で呼んでやれよ」
カズマのその言葉に俺ははっとした。
「カズマ、いや、それが、な? 俺……、カスミちゃんの下の名前知らねーんだ。名字がナカスミってのは知ってるけど」
「ええっ! マジか」
「それに、な。カスミちゃんも俺の本名知らねーんだよ……。多分」
「おいおい、どうやって結婚届けを出したんだよ。書き込んだんだろ?」
「そりゃ、
今になってようやく解ったよ。カズマに言われるまで下の名前の事なんて全く気にしていなかったんだから。この世界を想像したカミサマがすげーのか、それともそれをさせたカミサマがすげーのかわからねーけどカミサマってのはすげー種族なんだ。
奥から現れたカスミちゃんに俺は問いかける、名前は何て言うんだ? と。
「え? 今更? 幾つになるかわからないくらい一緒に居て、今?」
俺は大きく頷いた。
「私は、私の名前は
「俺の名前は、
どうせだからカズマにも振ってみる。
「俺か? 俺は
名前を言い合い俺たちは笑った。
な?
俺たちは名字しか言えないんだ。
ベッドの上でメガミサマに謁見したら子供を押し付けられました。 初月・龍尖 @uituki
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