エブリデイ投資
「あっ、やっべ。今日特売じゃん」
俺はクロとシロがつくってくれた弁当片手に端末でスーパーマーケットのチラシを見て呟いた。
「フミさん、フミさん。カスミちゃんがそろそろ限界だよ」
クロから今日は牛丼まつりじゃー! って言われているから帰りに牛肉買って帰らなきゃいけねーんだ。国産で割り引かれているやつが残っていればいいけど。何で外国産を敵視するかねえ。当たり外れが多いからかな?
「フミさーん。聞いてるー?」
集中しすぎて目の前でカズマの手が揺れるまで全く気が付かなかった。
「あ、すまん。今日の夕飯の事考えてて聞いてなかった。何の話だ?」
「何か本格的に思考がひとり親のお父さんになってきたな、フミさん。それよりも、カスミちゃんがそろそろ嵐を起こしそうだよ」
「マジで? 他のみんなは貢いでねえの?」
「満足できねえんだよ、多分な。フミさんが貢ぎ過ぎてたのが一番だろうけど、相性もあるから……」
「いや、あれぐらい普通だろ?」
「普通じゃねーって、毎日が記念日って誰の歌だよ」
「んー? 俺は今も毎日が記念日だと思って生きているぞ? シロとクロに貢いでるようなもんだし」
かわいい子どもたちの為ならエブリデイ投資!
「なあ、フミさん。1回カスミちゃんと会ってやってくれよ。頼む」
「その頼み、俺を友人として会わせるのか? それとも、聖者として、か?」
その言葉にカズマは居住まいを正し、ひとりの男としてだ。カスミちゃんに会って、あわよくば彼氏になってやってくれと言って頭を下げた。
争奪戦を辛くもくぐり抜けなんとか国産牛肉を手に入れて帰宅した俺は母親って欲しいか? とクロ(サポートシロ)作の牛丼をかっ込みながらそれとなく聞いてみた。
ふたりは顔を見合わせて
「「アイツはいらない」」
と首を振った。
「いや、クソ
「俺はトウサマがいれば満足だけどなー。でもニンゲンのオンナってのには興味がある」
牛皿から肉をとって頬張りながらクロが言った。
「フミさんがいれば、十分満たされる。でもお料理教えてもらえるならいいかもしれない」
スプーンをぎゅっと握って牛丼を口に運ぶシロが言った。
俺が、嫌では無いんだな? と問うとふたりは食事の手を止めて頷いた。
「フミさんにもフミさんの人生がある。その選択肢を奪ってはだめ」
「トウサマも俺たちばかりに構っていたらだめだよ」
「俺としては貢ぐ対象が変わっただけで生活が変わった感じはしないんだけどなあ……」
その言葉にふたりは顔を見合わせて、その人に会いたいと言った。
思い立ったが吉日。その日の内にカスミちゃんへと連絡を取り幸いにも彼女は次の日が休日という事で俺は無理やり半休をとって待ち合わせ場所に1時間前から出張っていた。
「待ちました?」
ふんわりとパーマがかかった茶色い髪で薄桃色のジャケットがトレードマークのカスミちゃんが缶コーヒーを飲んでいる俺の顔を覗き込んできた。
「待った。20分くらいかな?」
「そこはいま来たトコ、でしょー?」
くすくすと笑うカスミちゃんを隣に座るよう促す。
「お久しぶりですね。フミさん」
「そうだなあ。久しぶりだなあ」
「いきなり来なくなったので心配したんですよお?」
「うん。まあ、色々あってさ。カズマから何か聞いてたりする?」
「うんん。何にも」
自分で、そうだよな。自分の人生だ。
シロもクロも俺を独り占めしたいはずなのに俺の人生を尊重してくれた。
言おう、俺から。俺の言葉で。
「カスミちゃん。いきなりだけど俺と結婚前提で付き合ってください。コブ付きだけど」
「え? フミさんバツ付き、だったの? そんな話、聞いてないよ……。孤高な人だと思ってたのに……。あんまり自分のコト話してくれないし……」
うん? 最後の方が聞き取れなかったぞ? まあいいや。
「今から俺のウチに来ない?」
「え……? 何? エッチなお誘い? いきなり? まだ太陽が高いけど」
「いや、言葉で説明するよりも見たほうが早いんだ。それに会いたいって言っていたし」
「え? 何を? 誰が??」
「とりあえず、行こう」
困惑顔をしているカスミちゃんの手をとりベンチから立ち上がる。向かうは我が家だ!
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