娘を嫁に出す……、うっ頭が!

「オメデトウゴザイマス。聖者マサフミ」

「うぉあっ!」

 いきなり声をかけるな。どこからだ? 俺ってば音の方向がいまいち把握出来ないんだよな。どっちだ? 多分、上!

 抱きついたまま固まっているシロクロの頭を撫でながら上を向くと天井には何もなかった。

「ザンネンデス。目の前」

 視線を戻すと正座した男がいた。灰色スーツのビジネスマン。

「えっと、どちらさんで?」

「ワタクシ、役所の者でシて。シロさんの経過観察に来たのデスが来てビックリです。分神わけみと聖者就任をイチドにみられる機会なんてそうそうナイですから。眼福でした」

「左様ですか。それで役所の方、経過観察とは?」

「そのママの意味でス。どう進むかカケの対象になっていたのでその定期訪問デス」

「はあ……」

 なんでも娯楽にすんな、カミサマって……。

「もう、カケも意味がナイと上には報告しますネ。今後はあまり覗きに来ませン」

 まだ覗きには来るんだな。でもいい機会だ、よな。

「き、聞きたい事があるんですけど」

 勇気を出そう、俺はふたりの保護者。役所のヒトからならなにか案が引き出せるかもしれない。

「ナンですか? 聖者マサフミ」

「その、児童手当みたいな制度って、無いですかね?」

 俺のその問いに、男はへっ? と首を傾けた。

 その後、男はうーんと唸って

「若い神への支援……、上での制度デスから下には、んんー?」

 などと呟いてから顔を上げた。

「聖者マサフミ」

「はい」

「ワタクシから資金支援しまショウ。と言ってもコチラでの通貨価値でどれくらいなのか調べてからになりまスが」

「この子たちを送りつけてきたメガミからは1度だけ10万を貰っています」

 流石にこの場でクソメガミビッチとか言えねえからなあ。あ、心で言っていたら同じか。まあいいや。

「ふむ、1柱 ヒトリ10万?」

「いえ、シロ。いや、最初に貰ったっきりです」

 男は左目を閉じ左手で何やら空中に絵を描いた。

「……、コレは徹底的に調べる必要が出てキマシたね。軽く調べてミタのですが定期的に通貨を聖者マサフミに渡す必要があったようデス。還元せずに育てる場合には支援が必要ナノでそれに見合った報酬や資金を渡さねばならなイ。しカも、下のモノに育てさせる場合は加算されル」

「つまり、ヤツはそれを知らない? もしくはピンハネしている?」

 男が頷く。

「機構の方へは既に連絡シました。すぐに明らかになルでしょう。コチラ、ワタクシの名刺でス。連絡はそちラのふたりから繋がりまス。彼にもどウぞ。ではまた」

「ま、待ってください」

 名刺を渡し終え右手をあげる男に待ったの一声をかける。

「ナンですか?」

「クロ……。こっちの黒い子の保険証が無いので頂きたいのですが」

「ああ、分神わけみしたばカリでしたね。すぐに手配しまス。もうありませンか?」

「ええ、大丈夫です」

「では改めて。また会いまショウ」

 ふわりと煙が舞い男は消えた。

 固まったままのシロクロの頭を撫でつつカズマの方を見る。

 目が合うと

「まままままままマジか。上位人の名刺。フミさん。俺の方こそありがとうだよ! マジでありがとうだよ!」

 そう叫びながら抱きつこうとしてきた。

 ぴょーんと飛び上がった所でクロの飛び蹴りがカズマの顔面に当たった。

 顔を抑えて転がるカズマに近づき、シロが

「フミさんに抱きつこうとしない。おっけー?」

 と脅しをかけていた。

 俺はそんなカズマの動きを足で止め、耳を摘み上げてクロの下着を見てないよな? な? と囁いた。

 がくがくと首を縦に振るカズマをみてシロクロがむふーっと胸を張って笑った。

「お互いが大好き過ぎるよ。君たち……」

 そう言い残してカズマは帰宅の途に着いた。貰った名刺を忘れて。

 

 カズマは次の日に息を切らせて俺の部屋を訪れ名刺をしっかり回収していった。

 帰り際にクロからドロップキックを貰っていたのが印象的だった。仲いいなコイツラ。嫁にはやらんぞ。


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