ふたりのひみつ?

 シロとクロを両方の腕に抱いて涙を拭く。

 その間もずっと白と黒の俺が右から左から食べよう! 食べよう! うるせーの。コイツが蛇ってやつか。

「トウサマ。これ、俺の貰った手紙」

 抱き寄せたクロがもぞもぞと胸元から折られた紙を引っ張り上げた。オンナノコの胸は秘密のポケットってマジだったんだな。

 ちらりと見たがクロの手紙もシロと同じ様な感じだった。

「で、シロと分離して性別が分かれたよ。トウサマ」

「「うえっ!?」」

「ちょ、シロちゃんって両性? おい、そんな話きいてねーぞ」

「あ、ごめんトウサマ。口すべっちった」

 上目遣いに舌を少し出して片目を閉じ首を傾けるクロ。かわいい。だがそれよりも。

「どっちが、どっちになった?」

 ふたりを腕の中から解放して目の前に立たせる。

「シロが男で、俺が女。知能的には俺が上。悔しいけど可愛さはシロが上。性欲は俺が上。食欲はシロが上。あとは……」

 つらつらと単語を並べるクロは確かに頭が良さそうだ。

 一方シロの方はゆっくりと頭が前後している。

「クロ。シロが眠りそうだ。そこまでにしておいてくれ」

「分離にかなり取られたか? いや、蛇の制御かな? あっカズマ、結界外してくれ。シロの回復の邪魔になっちまう」

「呼び捨て……、まあいいけど。何で結界が邪魔なのか後で聞いてもいいか?」

「もち、俺の分かる範囲で言うよ」

 

 シロを布団に横たえタオルケットを掛けるとすぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。しばらく寝かせておこう。

 振り向くとカズマがおかしな踊りをしていた。聞けば結界を斬る動きらしい。

「で、カズマが聞きたいのは聖なる結界がどうしてシロの邪魔になったのか、だよな?」

 クロの言葉にカズマが頷く。俺は冷蔵庫からチューハイとジュースを出してカズマとクロの前に置いた。

 さっと手を出したのはクロの方だった。

「これが、ジュースってやつか。実際あまいなあ。あまい」

「これからはいつでも、って訳じゃないが飲めるんだ。急いで飲まなくていいんだぞ」

「そう、だよな。俺は1個の個体になったんだっけ……」

 封の空いたジュースを見つめてからクロはカズマの方を向いた。

「カズマ、トウサマから聞いているかもだけど俺たちは余り物だ」

 ふたりが同時に俺の方を見たので頷いておく。

「それで、俺は”正”の余り物でシロが”負”の余り物なんだよ。だから”正”しき結界は、シロにとって毒なんだ」

 その言葉にカズマは置いたままになっていたチューハイの栓を開け一気に喉の奥に流し込んでそのまま天井を凝視した。

 いや、ビビった。俺もビビった。シロが邪(淫)神だったなんて。

 かわいい邪神様だなと考えながら眠るシロの横顔を見ていると

「いや、その表現は良くないぞ。トウサマ」

 とクロが口に出していない言葉に対してツッコミを入れてきた。

「おうクロ。ナチュラルに心を読むな」

「あ、ごめーん」

 クロは口の端から舌を出してきゅるんと縮こまった。

「テヘペロしても許さん」

 床に放ったらかされているほど伸び放題なクロの髪を俺はわしわしとかき混ぜる。

「フミさんもナチュラルにスキンシップしないで」

 カズマは顔を引きつらせながら溜息を吐き、にっこにこの笑顔でクロは話を続けた。

「んでさ。俺は”正の負”、シロは”負の正”な訳よ。だから正しき結界は逆にちからを弱めるだけなんだ。今なら襲い放題だぜ? トウサマ」

「なんで自分の子を襲う必要があんだ? 護るべきものだろ?」

 俺が首を傾げるとクロが笑い出し、続けてカズマも笑った。

「フミさんって自覚ないみたいで笑っちゃう。なあ、クロちゃん」

「んだんだ。ここまで来るのにどれぐらいかかるのか、カズマは解るか?」

「俺が聞いた話はマジ苦行だから覚悟しとけぐらいだけど」

「ざっと5桁転ぐらいしないと行き着かないぞ。徳が高ければそこそこ短くはなるけどトウサマには強い蛇が居たからもっと……、それこそ6,7桁になってたかもなー」

「うええ、マジで苦行なんだなあ」

「カズマは上のヤツラと交流あんだなー」

「ああ、指導されてばかりの新人だけどな」

 あれやこれやと話すふたりの会話に俺はついていけなかった。なのでシロの寝顔を見ていた。この邪神、かわいい。

 でも、娘じゃなくて息子になったんだよなあ……。服は中性的なモノばかり買ってあげてるし。シロとクロの体型はほぼ変わらないから使い回せる。個性が出てきたらそれに合わせてあげよう。

 そんな事を思いながらシロの頭を優しく撫でる。クロとカズマは意気投合したらしくあーでもないこーでもないと言葉を交わしている。仕草や言葉はオトコノコっぽいけどクロはオンナノコ、なんだよなあ……。カズマ、クロ、娶る。うっ……。

「絶対やらんぞ!」

「ふわっ!」

 俺が出した声に驚いてシロの目が覚めてしまった。気持ちよく眠っていたのにすまない。シロ……。


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