第4話 垣間見える彼女の優しさ
女の子とアミューズメントパークに行く。
かつてない展開に胸が高鳴る。
マユミに予定を尋ねておきながらも、実は今後の予定は一通り決めてあった。何にせ高校二年生にしての初デートである。失敗は許されない――と言いつつすでにここまででだいぶリードし損ねているけど。
数分ほど歩いてから、今回は問題なく目的地にたどり着くことができた。ホッと胸をなでおろしながら、スマホをポケットにしまう。
アミューズメントパークは休日ということもあってか、多くの人で賑わっていた。そのうち、大多数が俺らと同じくらいの年の若者に見える。VR技術を使ったアトラクションを取り扱っているのがウリなのだそうだが、そのせいだろうか。
事前に調べていたとはいえ、来たのは初めてなのでいかんせん勝手は知らない。とりあえず俺たちは入場料を支払って入り口のゲートを通り、ちょうどそこに置いてあった施設内マップを手に取って広げた。
「さて、どこに行ってみようか。どれか気になるものはある?」
「うーん、どうしよう。VRゲーム……? こういうの初めてだから全然分からないなぁ……」
俺が広げたマップを眺めながら、顎に手を当ててマユミは悩んでいた。
それもそのはず、正直タイトルだけではどんなことをするアトラクションなのか分からないのだ。
中には「秘伝かめはめ波」というアトラクションがあるが……一体何をするんだ? 初デートというのもあって、アトラクションは慎重に選びたいところ。「デートで女の子を疲れさせちゃダメ!」って昨日読んだ恋愛指南書にも書いてあったからな。
各アトラクションにはプレイ料金が決められていた。これでは迂闊に選択を間違えられない。なんせ俺たちは高校生、いくつも遊べるほどの金銭的余裕はないのだ。
「……とりあえず見て回ろうか」
マユミにそう促してから、役に立たないマップを閉じて園内へと歩き出した。
辺りを物色しながら、他の人たちが遊んでいる様子を窺ってみる。アトラクションというと遊園地にあるような乗り物を想像するが、この施設ではテレビゲームのようなものをプレイするタイプが多く、他人が遊んでいるのを見ているだけでも楽しめた。個人的にはVRゴーグルをつけながら勇者になってモンスターを倒していくアトラクションが気になる。
「あれ面白いね。プレイしてる人は真剣なんだろうけど、こうやって傍目から見てると目隠しして踊ってるみたいだ」
俺がそう言って指差すと、
「ほんとだ、なんだか見てると不思議だね。あれ、やってみる?」
マユミは笑みを浮かべながらそう提案してきた。しかし、俺は一瞬返答に迷う。
たしかに気にはなるしやってみたいのだが、遊んでいる人を見ると明らかに重そうなリュックのようなものを背負っているのだ。そのうえコントローラーであろう剣の模型を振り回し、それなりに激しく動いている。俺は特に問題ないのだが、女の子がプレイするには結構疲れるかもしれない。
「……ううん、大丈夫。別のにしよう」
そう言って、そそくさとその場を後にした。正直少し後ろ髪が引かれる思いだったが、ここは我慢。
しかし今度は銃を持ってフィールドを動き回るタイプのアトラクションに目が引かれた。とはいえこれも、同じように重たいものを背負って動き回らなくてはいけなさそうだ。
「これもね、やめとこうね」
目線だけはアトラクションの方を向きながらも、歩みを止めず次のアトラクションに足を進めた。マユミもそのアトラクションを眺めながら俺の後ろについてくるのが見えた。
そのままいくつかのアトラクションを見て回ったのだが、意外にも身体を動かすものが多く、俺は完全に決めあぐねてしまった。
「ホウチュウさん、私どれでも大丈夫だよ?」
「いや、せっかくだし、一緒にちゃんと楽しめるものを……」
俺が再びマップを開きながらウンウンと唸っていると、唐突にマユミが声をあげながら俺の肩を軽く叩いた。
「じゃああれ、あれにしましょうホウチュウさん!」
促されるようにマップから顔を上げ、マユミが指差していた方向を見た。そこには等倍の模型ゴーカートに乗り込み、ハンドルを回して楽しそうに声をあげる少年の姿があった。ゲーセンなどによくある、レーシング系のアトラクションだ。たしかにあれなら身体も動かさないし、問題なさそう。
「うん、そうしよう。ありがとうね」
俺がそう言うと、マユミは安堵したように顔を綻ばせていた。
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次回更新は4/30予定
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