刻露清秀

N0ア

季節の体験

 季節は何回も体感しているはずなのに、その時の印象や感覚は忘れ去ってしまう。記憶だけが残り、季節の残り香すら、忘れてしまった頃には、次の季節が訪れる。そして想起する。短夜の月の湿り気と、葉っぱの匂いが嘘のようにに去っていく様を。そして想起する。乾いた風が、苦くも心地良い匂いを運ぶことを。その匂いはまた、食を彷彿とさせる。

 夜が長くなるにつれ、風の温度も穏やかに下がっていく。寒すぎず、暑すぎず。間の温度というのは、心地がいい。少し肌寒くとも、それは暑さを運ぶ風を忘れさせてくれる。肌に触れる布の範囲も増え、外部の空気を少し感じにくなる。多少寂しくあれど、ぬくもりは増す。暑すぎない暖かさというのは、人を幸せにする。エアコンが必要なくなるのも、どこか気楽さがある。

緑の抜け落ち葉は、季節の移り変わりを強調してくれる。山も町も緑から、赤や黄朽葉色へと遷移する。温度は下がっているというのに、景色の色は暖かさを増す。暖色は町を、彩り、活気を与える。運動の秋、食欲の秋などと共に。

匂いも、感触も、色も常に移り変わり続ける。記憶もまた、移り変わり続ける。どのひと時も、大切にしたい。だが、日常に埋もれてしまい、そんなことさえ忘れそうになってしまう。手記を残すといのも、大切かもしれない。再考しながら、体験したことを書き綴る。そうすればきっと、思い出すと共に、時の大切さも実感できる。なにより、忘れないでいられる。

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