氷の生徒会長、家ではスライム

浦田ウラタくん、この資料よろしくね」


 生徒会長が、オレにプリントアウトした紙を渡す。

 修学旅行のしおりだ。


「はい、美咲ミサキ会長」


 プリントを受け取って、誤字のチェックをする。


 眼鏡越しから、生徒会長の視線を感じる。

 氷のように冷たい視線を。

 

「問題ありません。美咲会長」


「ありがとう。じゃあ今日はおしまい。お疲れ様」


「さようなら、会長」



 生徒会長と分かれて、オレは自宅へ戻る。


 リビングのエアコンを付けて、ノートPCを立ち上げた。

 さて、動画でも見るか。


「あつい~」

 


 数分遅れて、美咲が帰ってきた。

 ソファに足をひっかけ、そのままダイブする。


「ああ~っ。涼しい」


「涼むだけなら、ウチじゃなくてもいいだろ。図書館いけよ」


「やだよ。あそこ、ダラってできねえじゃーん」


 今度は仰向けになって、美咲はうなだれる。


「とても、生徒会長とは思えんな」


「え~っ。二人きりのときくらい、生徒会長呼びはやめてよぉ~」


 アイスの入ったレジ袋を、ピトッとオレの肩に当てる。

 驚かせているのではない。包みを開けろと言っているのだ。


「しょうがねえな。ほらよ」


「ありがと~」


 棒の板チョコアイスをバリボリかじりながら、美咲はスライム顔になる。


 その姿は、みんなの憧れの視線を一身に受けている女生徒会長とは思えない。


「ねえ、また告白された」


「またかよ。相手は?」


「うん。サッカー部の小林くん」


「懲りねえな。タイプがまるで逆じゃん」


 美咲は男を寄せ付けないために、あえてクールキャラを演じている。

 ついたあだ名が、「氷の女王」だ。

 本人も面白がって、オレの前以外ではそのキャラで通している。

 

「落とせるなら、どんな女でも落とす感じ? なんていうか、落とせなかったら自分のプライドが許さないって印象を受けたよ」


「しょーもなっ。美咲はゲームの攻略対象か、っての」


 サッカー部の主将ともあろう男が、なんと器の小さいっ。


「オレたちが付き合ってること、話した?」


「いいえ。そんなことをしたら、駿シュンくんがイヤでしょ? ウワサになっちゃって」


「オレはいいんだよ。お前の内申に響くかもって、隠してんじゃん」


「またそーやって、人のせいにするー」


 足の先で、美咲がオレの脇腹をツンツンする。


「駿くんは、迷惑じゃない? 付き合ってて」


 オレに言い寄ってきたのは、美咲の方なのだ。


「幼なじみだろうが。今更気にすんなよ」

 

「でも、公言できないってストレスじゃない?」


「別に。氷に覆われた秘密って感じがして、オレは楽しんでるぞ」


「よかった。じゃあ、当分は溶かさなくていい?」


 別に構わない。


 だが、オレの方が美咲に溶かされてしまっているってことは、いつまで隠し通せるだろう。

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