怪盗 遠慮の塊

「あーもう、食べられない」


 チェーン店の中華料理屋にて、ミナミはギョーザを残した。


「最後のひとくちが、食べられないのよねえ」


 ミナミはいつもこれだ。


 最初の一口は美味しく食べられる。しかし、あともう一口が入らない。


「お会計を済ませて……あっ!」


 最後の一個がなくなっていた。


「だ、誰!?」


 周りを見回すと、誰もいない。


 しかし、確実にギョーザは一個なくなっている。

 

 


 ただテーブルに、


 「食べられなかった最後の一口、ごちそうさまでした 

  怪盗 遠慮の塊」


 と書かれたメモが。

 

 上京したてのミナミに、まともな友だちはいない。

 イマジナリーフレンドさえ、作ったことはなかった。

 なので、こんなイタズラをする相手なんて、心当たりがない。


 ギョーザは、盗まれたのである。



「人間はどーして、食べ残しをするニャー」



 他人のテーブルからコッソリ残り物を盗んだのは、店の裏側に住み着いたネコだ。


 本来、ネコにニンニクやネギ、ニラは猛毒である。

 実際このネコも、かつてギョーザを食べて死んだ。

 しかしチェーン店の味が忘れられず、「もったいないお化け」として再生した。


 昭和の時代から「怪盗 遠慮の塊」を名乗る彼は、今ではすっかり脂肪の塊となっている。

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