お菓子の家で床ペロ ~新説・ヘンゼルとグレーテル~

 お菓子の家の中で、ヘンゼルはひたすら床をなめていました。


「おにいさま、いくらチョコが好きだからって、床をなめてはいけないわ。こういったロウソク型のグミとかをしゃぶりなさいな。むちゅう。んっぐ。んっぐ」


 グレーテルは夢中になって、白くて太くて硬いグミにむしゃぶりついています。

 なんだか、センシティブですね。


「何を言っているんだ。お菓子の家で一番おいしいところは、足元って相場が決まっているんだ。ああ、うめえ。無限になめられる」


「床に這いつくばっているおにいさまは、とっても魅力的だわ。でも、物事には限度というものがございまして。もっとお上品に召し上がりなさって。むちゅ」


 兄ヘンゼルを見下ろしながら、グレーテルは自分の足についたチョコまで舐めさせます。


「ああ。妹の足もおいしいです床ペロ」


「下劣な。でもそんな地に落ちたお兄様も、素敵」


 続々と背筋のむずがゆさに耐えながら、グレーテルは椅子型キャンディの足に舌を這わせました。

 センシティブですね。


「これこれ、ヘンゼルとグレーテルや。おとなしくしていたかあああああああ!?」


 魔女が五秒もしないうちに、落とし穴に落ちました。

 それで絶命をしてしまいます。

『ミシシッピー殺人事件』なら、ゲームオーバーになるところでした。

 

 実は床ペロのし過ぎで、床が緩んでいたのです。とはいえ「お菓子の家」は、地面の養分でチョコを生成していたため、だんだんと底に穴ができていました。

 そこへ、グレーテルがなめたイス型キャンディに座ったから、足の骨組みが溶けてなくなっていたのです。

 魔女は、背中から真っ逆さまに底なしの穴へと落下していきました。


 異常な性癖が、二人を魔女から救ったのです。


 本来なら二人は、魔女の家から財宝を持ち出して逃げる場面です。

 しかし癖に目覚めた二人が、こんなにおいしくてセンシティブな家を離れるなんて、できないのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る