もちもち男子

「トモチって、ほんとに肌がモチみたいだよねえ」


 アーヤが、ボクのほっぺをツンツンとする。

 

「どこが?」


「肌全体。プリップリというより、モチモチッって感じ」

 

 普通モチモチって表現は、女子に対してやるもんだと思うけど?


「そういうアーヤも、その……」


 アーヤの胸に、思わず視線が言ってしまう。


「成長期だもんね。しょうがないよね」


 妖艶より健康美という言葉が似合うアーヤにとって、豊満なバストは脂肪の塊でしかない。


「トモチは女の子より女の子みたいな感じだよね」


「それ、褒めてるの?」


「褒めてますよ! だって、こんなカワイイ子なんて女子にはいないもん」


 どうだろうか。

 ボクがカワイイ女子だったら、他の女子なんて美貌にあふれていると思うけど?

 

「もうちょっと、褒め方ないかな?」

 

「じゃあ、雑煮系男子?」


「なにそれ」


 雑な褒め方だなぁ。

 

「おモチだけが主役じゃないって感じ」


「例えば?」


「あたし、雑煮で言うと、ニンジンの甘みが好きなのね」


 脈絡のない会話が始まった。


 アーヤと話すと、いつもこうだ。


「で、白味噌も好き。おモチと絡まった、小芋もかなり好き」


「……つまり?」


「えーっ、わっかんないの?」


「そんなね、雑煮に例えられて好きって言われても、複雑な気分だよ」


 アーヤの気持ちはわかっている。

 でも、雑に告られても応えるワケにはいかない。

 


「そうかなー?」


「もっとストレートに言ってよ」


「今夜はお雑煮がいい」


「はいはい」


 もう仕込んである。



「ああ、おいしい。やっぱり年明けはお雑煮だねえ」


 温かいお雑煮を、アーヤは空にした。


「このおもち、柔らかいねー」


「町内会でもらったんだ。つきたて」


「だからおいしいんだねえー」


 丸いおもちを、アーヤは七つも食べてしまう。


「大丈夫? アーヤ」


「へーきへーき」


「今は大丈夫でも、急にどーんとくるよ。おもちって」


「お雑煮が止まらないよ」


 だが、アーヤの箸が止まる。

 やはり、ドンと雑煮がお腹にたまり始めたか。


「トモチの愛が重い」


「ボクがいつ、キミに愛情を注いだっけ?」


 少なくとも、お雑煮に込めたつもりはないよ。


「まあ、大丈夫そうだね」


「うん。リバースするほどでもない」


 アーヤが、少し横になる。

 それで、ちょっとは落ち着いたようだ。

 残りのお雑煮を平らげる。


「よく食べるねぇ」


「お雑煮なんて、年に何回かしか食べないから」


「あ、ちょっとお隣にもおすそわけしてくるね」


「待って。そっちはあたしが行く」


 タップタプになったお腹を擦りながら、アーヤがオモチのお盆を持つ。


「どうしたのさ?」


「あっちには、『別の』おさななじみがいるから」


 今度は、ヤキモチを妬き始めたのか。

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