勇者なボクと魔王なお姉さんの、はじめてのLARP《ラープ》体験

「LARP《ラープ》?」

 

 聞き慣れない単語に、ボクは首を傾げた。

 

「そう。ライブRPGのこと。海外では割と流行ってるらしいんだけど、日本ではまた浸透していないの」


 近所のフユミお姉さんが、ボクに説明をする。黒いハイレグのレオタードの上から、エッチなコスプレ衣装を着ながら。

 スマホスタンドなどの撮影機材まで用意していて、本格的だ。


「ナツキくん、巣ごもりで全然お外で遊べてないじゃん。だから、フユミお姉さんが一肌脱ごうってわけ」


 だとしても、目の前で着替えてほしくないなあ。


「ままごとのスゴイ版みたいなやつか?」


「そうそう。で、一緒に遊ぼうってわけ。それを配信してさ、ラープの面白さを日本に教えたいの。コスの幅も広がるじゃん。いいこどづくめなの」


 お姉さんがビーズソファに、デフォルメされたドラゴンのきぐるみを着せる。

 ドラゴンを玉座にしている魔王の、できあがりだ。


 ボクは、そいつを倒しにきた勇者という設定である。


 お弁当箱を包むキャラモノ風呂敷をマントにして、剣もダンボールで作ったやつだが。



「セリフは考えてきたよね? はい。よーいスタート」


 フユミお姉さんが、トイレットペーパーの芯で作ったカチンコを叩く。


「やいやい魔王! 神妙に縛につきやがれ!」


「カット。それじゃ時代劇だよ」


 フユミお姉さんから、ダメ出しをくらう。


「でも、お父さんのコレクションから好きな言葉をって言われたら」


「あーっ、アキオ先輩じゃ、しょうがないか。もうちょっと、若者らしいセリフをチョイスしようよ」


「グヘヘ! 道端のゲロと見分けがつかない顔にしてやるぜ!」


「カット。子どもが言うセリフじゃないよ」


「でも、お母さんチョイスだとこうなっちゃうよ」


「ハルナ先輩なら、しょうがないかー」



 仕方ないので、いきなりフユミお姉さんとバトルシーンになる。


 


 まずは、お供を攻撃することになった。

 魔王のお供は、スライムに見立てたビーズクッションだ。


 タオル地のサイコロクッションを振って、判定する。

 すごろくや、テーブルトークとルールは変わらない。

 紙の上で展開するか、生身かの違いである。

 

「クリティカルだね。ほい」


「たーっ」


 お姉さんが放り投げたスライムクッションを、ボクは一撃で殴った。


「あらあ、脱げていっちゃったぁ」



 なぜか、お姉さんが脱ぎだす。


「ちょっと!?」


「スライムの粘液がお姉さんにくっついて、服が溶けちゃう設定」


 スカートが脱げて、ムチムチの太ももがあらわになる。


「ささ、わたしの番ねー」


 お姉さんも、クリティカルを出してしまう。


「うーん、どうしよう。ダメージ回復用のポーションを飲んじゃうことにしよっと」


 肩にかけていたボクの水筒を横取りして、お茶をごくごくと飲みだす。


「え、間接」


「ん? どうしたの? ナツキくんの番だよ?」



「え、あっ」


 サイコロを振ったら、一の目が。


大失敗ファンブルだねえ。一気に大ピンチだよ」


 フユミお姉さんの足で、ボクは挟み込まれてしまった。

 反撃しようにも、剣も折れている。


「次はお姉さんの番ねー。ああー。わたしもファンブルだぁ」


 お姉さんが、ボクを抱きしめた。


 ボクの唇が、フユミお姉さんのホッペに当たる。


「さっきナツキくんからのキスで、魔王は改心しました。もう悪いことをしないので結婚してー」


「え、あ、はい」


 ボクも、フユミお姉さんを抱きしめ返す。


「ああもう、ナツキくんはかわいーなーっ!」


 お姉さんに抱きしめられながら、ボクはなんども振り回された。


 正直これがラープなのかよくわからない。


 でも、お姉さんと遊ぶのは悪くないと思う。

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