屋上からおにぎりが落ちてきた。見上げると学園一の美少女が泣きながら弁当食ってた

 屋上から、おにぎりが落ちてきた。


 ボクは、思わず手でキャッチする。


 コンビニ弁当じゃなくて、手作りのやつだ。

 しっとりとした短いノリで巻いた、俵型である。


 食べていいのかな?

 でも、落とし物だったら返してあげないと。

 つっても、ボクが拾ったものなんて食べるかなぁ。


 とにかく、どこから落ちてきのか探らないと。


「須崎くん……」


 ボクを呼ぶ声がして、ふと空を見上げた。


 屋上に、人影がある。


 女子生徒が、屋上でお弁当を広げていた。

 縁に腰掛けて、ヒザの上に弁当箱を乗せている。


 少女はボクのことを、じっと見ている。

 おにぎりが気になっているのかな。

 

 あの位置は、危ない。落ちたら大変だ。


 

 ボクは、屋上へ向かって走り出す。



「あの、落とし物、です」


 ボクは、言いよどむ。


 少女が、お箸をくわええながら涙を流していたからだ。


「ど、どうしたの倉沢くらさわさん?」


 その子は、倉沢 みさきさん。この学校で一番の美少女と名高い。


 いじめられたのか? こんな子を泣かすなんて、ひどいや。


「な、なんでもないの」

「なんでもなくはないでしょ。おにぎり落とすくらいなんだから」


 ただ、ボクはおにぎりを渡すべきか躊躇した。


 ボクみたいな陰キャが拾ったおにぎりなんて、食べたくないよね。


「ありがとぉ。うれしい」

 

 倉沢さんが、フェンスのドアを開けて屋上の内側へ。

 開閉自由なんだな、ここは。


 よく見ると、すぐ下にフェンスがあるじゃないか。

 落ちても大丈夫だったんだな。

 倉沢さんだけ見てたから、見落としてたよ。


「このおにぎり、わたしめっちゃ好物で。でも、うっかり落としちゃって」

「お気に入りのおにぎりが下に落ちたから、泣いてたの?」

「そうなんだよ。でも拾ってくれてありがとー」


 お箸じゃなくて、倉沢さんは手で直に受け取った。

 そのままお口へパクっと。


「うーん。おいしい! おにぎりはやっぱりツナマヨだよね!」


 じっくりと噛み締めながら、倉沢さんはおにぎりを堪能する。


「須崎くんも食べる?」


 なんと、おすそわけしてくれるそうだ。


 ちょうど、ぼっちメシをどこで食べようかと思っていたところである。

 いつもは階段の踊り場で食べるんだけど、ヤンキーがたまっていた。

 かといって賑やかすぎる学食も、気が引ける。

 屋上で、しかも学園トップクラスの美少女のごはんが食べられるなんて!

 

「ありがとう、倉沢さん。いただきます」


 うん、ツナマヨだ。おいしいなぁ。


 おかかに昆布といった、昔ながらの具材も、いい味を出している。


「須崎くんのお弁当も、分けてもらっていいかな?」


 ボクは、タコウインナーとハンバーグを分けてあげた。


「ああ、こっちもおいしい。須崎くんのお弁当、いつもおいしそうだよね」

「そうなの? 母さんが作ったやつだけど、ほとんど夕飯の余り物だよ?」

「でも、ずっと気になってたんだよ。一緒に食べたいなって」

「ちょっと待って。どういう意味?」


 倉沢さんは、答えない。

 その代わり、急接近で顔を近づけて


「倉沢さ――」

 

 ボクのほっぺについたご飯粒を、倉沢さんが指でつまむ。

 

「須崎くんさ、ずっとわたしのこと見てるでしょ?」


 気づかれていたのか? キモイと思われちゃったかも。


「実はさ、わたしもずっと須崎くんのこと、気になっていたんだよね」


 マジか。夢じゃないよね?


「これからもこうやって、屋上で一緒に食べてくれるかな?」

 

 指のご飯粒を、倉沢さんが蠱惑的に口へパクっと。


「もちろん!」



 落ちてきたおにぎりをキャッチしたら、ボクが恋に落ちた。

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