スク水の少女と、シャワー室で二人きり。

 父の実家がある田舎で、海水浴の帰り。

 スク水の少女が、ビーチ脇のシャワーで砂を落としていた。


 歳は、自分と同じか少し上くらい。

 姉より年下くらいだろうか。


 彼女のまだ未発達な身体を、シャワーの水が伝う。

 間仕切り板が邪魔をしているから、全貌は見えない。


 シャワーは、ビーチにはそこにしかなかった。

 海水浴場を上がっていけば、廃校跡を改造した旅館の水場がある。

 けど、ちょっと遠い。

 

 ボクはその子を待つ。


 スク水の少女と、目が合った。

 ちょっとムッとしてる?


 まだ子どもだけど、ボクは少し男の視線を送ってしまっただろうか。


 そんなことを考えながら、ボクは視線をそらす。


 少女は何も言わず、シャワー場からどいた。


 ボクは急いでシャワーを浴びて、サンダルを履く。


 突然、間仕切りが開く。


 さっきの子が、シャワー室に入ってきた。


「え?」


 ボクが驚く前に、少女に口を塞がれる。

 少しだけ、ボクより背が高い。


「さっき見てたでしょ」


 首を動かせないので、視線だけをそらした。


「見てたんだ。こっちの子じゃないよね?」


 それには、首を動かす。


「今、声を出したら、触られたって大声で叫ぶから」


 釘をさし、少女はボクの口から手を離す。


 ボクは、ぎゅっと抱きしめられた。

 ほんの少しだけ膨らんだ胸が、ボクに押し付けられる。


 何が起こったのか、わからない。


「弟たちの面倒ばっかりで、歳の近い子と話すことなくて。今日は一人で泳ぎに来たんだ」

 

 こちらが聞いているわけでもなく、少女は一人で話し始める。



「男の子って、熱いんだね」


 ボクは返答に困った。どストライクな女の子に抱き寄せられているから、なんて言えない。


「他の人たちは?」


 非情にまずい状況だ。

 冷静になってもらうため、他人の存在を意識してもらう。


「近くで投げ釣りしてる」

「うちといっしょだね」

「家族で帰省?」

「両親と、二つ上の姉さん」

「お姉さんと一緒じゃないんだ」

「カナヅチだから、水着も持ってきていないんだ」


 姉は泳ぐより、魚釣りのほうがスキだ。

 

「案外、うちの家族と意気投合していたりして」

 

 なおも、少女はボクを抱きしめる力を強める。


「ねえ洗ってよ」

「えっ」


 ボクは、また言葉をつまらせた。


「背中、洗いにくくて」

「あ、ああ、そういうこと?」


 ホッとしたボクの前で、とんでもないことが起きる。


 彼女が、スク水の肩紐をおろしたのだ。

 

 少女の言葉を、ほんとうの意味でわかっていなかった。


 背中にびっしりとついた砂を落として欲しい、って言われていたのだ。


「ちゃんと手で払ってね」

「う、うん」


 言われるまま、ボクは彼女の砂を落とす。


「震えてる」

「そりゃあそうだよっ」

「ひと夏の出会いだよ。もう会えないんだから、緊張しなくてもいいじゃん。『やった女の子の身体を触れたラッキー』、ってくらいで思わなきゃ。男の子じゃん?」

「こんなことと男は関係ないよっ」


 砂を落とし終えて、少女は「ありがと」と言った。背中を向けたまま、肩紐を直す。


「前も洗いたかった?」

「からかわないでっ」

「じゃあ、今度はわたしが、海パンの中を洗ってあげようか?」

「結構ですっ」


 ちょうど、姉が呼びに来た。


「バーベキューするから。じゃあね」


 ボクは、急いでシャワー室から出る。



 もう二度と、彼女とは会わないって思っていた。


 だけど、毎年帰省してはその子に会って、色々とあって。



 

 今は、二人で一緒に両親のいる実家へ帰省をしている。

「来年は三人で来るから」

 と、両親に報告するためだ。

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