学生帽から髪が飛び出ているやつを、初めて見た

 漫画の世界にいる番長キャラは「髪の毛と学生帽がほぼ同化している」ヤツがいたりする。


 現実世界に、そんなヤツなんていないだろうと思っていた。


 だが今、目の前にいるやつは、学生帽と髪が融合していた。



「お前が、板垣高校の総番か?」

「ああ、お前がチーム八坂連合のリーダーだな?」


 ブレザーのネクタイをほどきながら、「そうだ」と答える。


「どっちが強いか、勝負だ!」


 四股を踏むように、番長は足を高く上げた。

 ズシン、と足を落とす。

すげえ、地面が一瞬揺れた気がしたぜ。

 

「後で、泣き言いうなよ!」


 相手がパワー型なら、俺はスピードタイプだ。


 俺は、自分の被っているベレー帽をかぶり直す。


「どっちかの帽子が、取られた方の負けだ」

「顔面及び肉体への攻撃は、なしだったな?」


 互いにルールを確認し合った後、勝負が始まった。


 でも、あんなのどうやって脱がせるんだ?

 頭と帽子が、一体化しているではないか。


「うおらああ!」

「わっと!」


 相手のラリアットが、俺の頭をかすめた。

 顔面への攻撃はなしって、言ったはずなのに。


 帽子は、無事か。


「そっちがその気なら!」


 俺は、左右に激しく動いて敵をかく乱する。

 

 砂ボコリで、前が見えまい!


「今だ!」


「うおおおお!」


 コイツ、強引に目を開けて突進してきやがった!



 ならばスピードで打ち勝つ!


 限界まで手を伸ばし、相手の帽子を掴んだ!


 同時に、俺のベレー帽は犠牲にならざるをえない!


 

 

「いやあああん!」

「きゃあああ!」


 

 両者とも、帽子が脱げてしまった。


 引き分けか。


 それにしても。


「ううう」


 勢い余って、俺は相手の学ランまで脱がせてしまった。

 アッパー気味に腕を伸ばしたため、手が学ランのボタンを全部はずしてしまった。


 結果、帽子だけではなく学ランまでキャストオフしてしまうとは。


 それにしてもアイツ、学ランの下にあんな巨乳を忍ばせていたなんて。


「あーあ。またセットし直しじゃないかよ」

 

 俺の方のダメージもデカい。


 ベレー帽が取られたことで、隠していた金髪ロングヘアがあらわになってしまった。


 今まで大事にしていたのに。


「お前、女だったのか?」


 番長が聞いてくる。

 

「俺はれっきとした男だよ。お前こそなんだよ。女だったのを隠していただなんて」

「番長が女だと示しがつかないから、男装していたんだよ」

「でも、どうしよう」

「何がだよ」

「家の掟を守らないと」

 

 

 この帽子を取った相手とは、「結婚を約束」しなければならない。



 番長の顔が、急に乙女チックになった。


「よ、よせ。俺まで切なくなるじゃねえかよ」

「でも、こうなった以上は、全部腹を割って語り合うのがいいな」

「そうだな。まずはお茶でも」

「えへへぇ」


 だから急にメスを出すなって。

 好きになっちゃうだろうが。

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