B面? カップリングでしょ?

「このCDのさ、B面が泣ける曲なのよ」


 ウタコはいつも、カップリング曲のことをB面と呼ぶ。


「B面? カップリングでしょ?」

「別に、B面でいいじゃん」


 ギリギリカセットテープが現役だった世代なので、親から聞かされた「B面」がなじんでいるらしい。

 事実、ある程度カラオケ音声がカセットに残っているくらいだし。


 リビングでは、お互いの娘たちがスマホで自分たちの姿を録画しあっている。


「もうさ、こんなの今の若い子は知らないかしらね」


 実家から持ってきたカセットをポンポンと上に投げ飛ばしては、ウタコはキャッチする。

  

「そうでもないんだって。なんかおもちゃであるらしいよ。カセットテープ」

「マジで?」

「録音もできるってさ」 

「昭和すぎるじゃん。黒電話より先に絶滅したと思っていたわ」



 カセットテープがまだ現役ならと、さっそくウタコがCDラジカセを出す。

 まだCD世代の親が来たとき用に使うのと、ラジオを聞くためだ。


「年季入ってんねぇ」

「高校生のときに使って、まだ壊れていないのよ」


 でも、この造形美がなんとも言えない。

 学生時代を思い出す。



「ママこれなーにー?」


 平成初期のガジェットに、令和生まれの娘たちは興味を惹かれている。


「これはラジカセって言うのよ。音楽が聴けるの。何を聴こうかしら?」


 子どもたちは、児童向けのOPテーマをリクエストしてきた。


 まず、CDをセットする。


 まだまっさらな、使っていなかったカセットに、録音を始めた。


 このカチャって音がなんとも言えない。


 スマホやPCとは違う、優しい音色がラジカセから聞こえてきた。


「音がこもってるけど、なんかいい!」


 娘たちも、CDをラジカセの音に大満足のようだ。


「B面をセットするわね」


 録音を一旦切って、テープを裏返す。


 ああ、この動作もたまらない。


「わかる。わたしも音フェチなの」


 再び、録音開始。


 また、娘たちが歌いだす。


 しっとりとしたメロディで、元気だったOPとはまた違う曲調だ。


 どちらかというと、大人になってしまったかつての子どもたちに向けたメッセージのような。

 ちょうど、私たちみたいに。


 私たちは、子どもたちにとってはB面なのだろう。


 でも、確実にそこにあった。


「どうだった?」

「楽しい!」


 子どもたちは、カセットテープをもらってワイワイとはしゃぎだす。


 かつての私たちのように、彼女たちもテープを引っ張り出してダメにしてしまうだろう。


 それでも、たしかにカセットはそこにあるのだ。


「B面の曲、よかったでしょ?」

「だから、カップリングじゃん」


 令和になったんだから、そこは譲らない。

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