脱力系地味子は、放課後の格ゲーでのみ血が騒ぐ

「お、やっと起きてきたか」

「ん、おはよ。タイチ」

「帰ってゲームしよ。早く行かないと学校に関係が広まっちゃう」

「うむ」

 


 イタルさんは、いつも授業中は寝ている。

 夜遅くまでゲームをしているかららしい。

 なのに成績はいいというチートぶりだ。

 ほとんど睡眠学習なのでは、と思えるほどである。

 その分、ボクがノートを取ってあげないといけないけれど。


 ノートはボクが取り、逆にボクはイタルさんから勉強を教わる。

 この秘密の相互関係が、「格ゲー同好会」設立からずっと続いていた。


 同好会と言っても、部室を持って何かをするわけじゃない。

 イタルさんかボクの自宅を交互に行き来して、格ゲーを遊ぶだけだ。

 家に上げて最初こそ勉強で頭を使う。

 その後は、日が暮れるまでゲーム三昧だ。

 家が隣同士だから、夜が遅くなっても平気である。

 

 ボクが窓全開で格ゲーを遊んでいたら、イタルさんがじっと見ていたんだ。

「一緒にやってくれないか」と言われたのが、きっかけである。

 妹がアウトドア派のために、ゲームを遊んでくれないらしい。

 ネットで戦ってもいいが、気心の知れた人と遊べないのは辛いという。

 ボクも、見知らぬ人と対戦するのは気が引けた。

 お互いの利害が一致して、格ゲーを遊ぶことに。


「相変わらずムキムキの投げキャラばかり選ぶ」


 イタルさんが、ボクのキャラ選択にコメントした。


「自分とかけ離れているキャラを選びたいんだ」

「変身願望。タイチはそうやって身体を大きくして、女性を無理やり……むふぅ」

「イタルさん鼻血!」


 なぜか、イタルさんはボクと戦うときに鼻血を出す。

 どうしてなんだろ? なにか、ボクのキャラ選択が興奮するツボなんだろうか?


 とはいえ、数分で引っ込む。大事には至らないようだけど。

 落ち着いたところで、イタルさんがキャラを選ぶ。

 飛び道具のない、対戦ランクでも下位のキャラを選んだ。

 

「イタルさんは、奇妙なギャグキャラが多いね」


 およそ弱そうなキャラばかり、イタルさんはチョイスする。

 どうしようもなく大きいキャラだったり、メイドロボットだったり。


「弱いキャラが勝ち進むことに、カタルシスを覚える」


 うわあ、すごい性癖だ。

しかも、見たことのない技で勝つ。


 イタルさんとの戦いは、白熱する。 

 ボクが知らない格ゲーの奥深さをたくさん知っていた。


「ありがと。イタルさんのおかげで、格ゲー道に幅ができたよ」

「礼を言うのはこっち」

「どうして? ボクなんて負け通しなのに」

「一緒に遊んでくれるだけで、うれしい」



 ボクの身体に、血が湧き上がってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る