投げキッスどこまで飛ぶか選手権

「ん~まっ!」


 見習い魔道士イパネマは、今日も投げキッスでファイアーボールを形成する訓練を積んでいた。

 投げキッスの先には、木製の板が。

 板には、キスマーク型の焦げ跡が多数残っている。


「ダメざます! もっと情感を込めて!」


 専属家庭教師が、ムチを手でピシッと鳴らす。

 

「でも、もうお口が限界です。ヒリヒリするぅ」

「まだざます! そんなヘナチョコキッスでは、術師試験を合格できませんわ!」

 

 投げキッス型ファイアーボールは、魅了魔法の一つである。

 モンスターが異性の場合、思わずキッスにつられて術を受けてしまう。

 心臓などの急所に近ければ近いほど、大ダメージを期待できるのだ。

 魔法の威力というより、女性としての資質が問われる。


「賢者にクラスチェンジした遊び人」が編み出した術とされていて、主に女性が使用するのが主流だ。

 この派生技として、投げキッス型の治癒魔法まである。

 

「投げキッス」は競技化し、近々術師オリンピック候補にまでなったとか。



「ダメざます! 『マッ』と空気を口外で破裂させた瞬間に、魔法発動なさるのです!」

「タイミングがシビアすぎるよぉ」

「そのための練習ざましょ?」


 もっともな意見を返された。

 とはいえ、かれこれ二週間同じ訓練をしているが、一向にうまくなるイメージがわかない。


「イパネマ、めちゃがんばってるね」


 友人のルノアが、様子を見に来てくれた。


「投げキッスファイアーボールかぁ。私は治癒だけど、試し打ちしていいかな」

「いいよー」


 その間、こちらは少しでも口を冷やさないと。


「ん~ちゅ、ちゅっちゅ」


 器用に、ルノアが投げキッスを的へ放った。何度も。


 的についていた焦げ跡が、キレイに取り除かれている。


「す。すごい」


 相変わらず、ルノアの魔法射撃力はすさまじい。


 学園トップクラスなだけある。


 どうしてこんな優等生が、イパネマのような落ちこぼれと仲良くしてくれているのか。


「ルノアは、上級コースも夢じゃないよ。わたしと関わっても、きっと上達しない」


「うーん、あたしは上級とかクラスとか、興味ないんだよね。勉強なんて、独学でどうにかなっちゃうじゃん」


 どうにかならない人物がここにいるだけに、なんとも言えない。


「それに、こんなのできても、しょうがないよ。回復のときは、そばにいてあげたいじゃん」


 なんとも、男前な一言である。


「じゃあ、がんばってね」


 ルノアが、去っていく。

 

「うん。ありがと」

 

 彼女の技を見たことで、なんらかのヒントを得た。


 今なら、できるかもしれない。

 イパネマは、ルノアにお礼の投げキッスを送る。

 

 自分は、ルノアに近づきたい。一歩でいいから。

 

「ん~まっ」


「はうっ」

 

 ルノアが倒れた!


「あ~ルノア!」


 まさか、感謝で打った投げキッスがジャストミートしてしまうとは。


「大丈夫!?」

「う、はっ……うん」


 なぜか赤面しながら、ルノアが顔をそらす。

 嫌われてしまっただろうか?

 

 

 後日、試験には合格したが、ルノアはずっとイパネマに抱きついて離れなかった。

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